研究課題
転写因子ICE1とカルシウムの認識に関わるカルモジュリン様タンパク質CML10, CML12が相互作用することで、低温シグナル伝達機構を調節していることが明らかになってきた。そこで、ICE1とCMLとの相互作用部位を特定するために、ICE1とCMLが相互作用する部位を狭めていき、ICE1の403aaから493aaまでが相互作用に重要であることが明らかとなった。この領域を更に調べていくと、405aaから422aa部位にカルモジュリン結合ドメイン(CaMBD)と予測される部位が存在した。そこで、この部位に変異を導入したICE1とCMLとの相互作用を酵母2ハイブリッドアッセイにより調べたところ、相互作用しなかった。このことから、CaMBDにおいて、ICE1とCMLは相互作用することが明らかとなった。次にこのCaMBDがICE1の機能において重要であるかを調べるため、CaMBDを除去したICE1(ΔCaMBD)およびCMLとの結合に重要なアルギニンをグルタミン酸に置換したICE1(4RE)をice1 ice2二重変異体に導入し、その変異を相補するかどうかを調べた。すると、ICE1(ΔCaMBD)を導入した植物ではice1 ice2二重変異体を相補できず、ICE1(4RE)を導入した植物では若干相補したが、完全には相補できなかった。以上のことから、ICE1のCaMBDがICE1の機能において重要な役割を果たしていることが明らかとなった。CMLはカルシウムを認識する因子として重要であるが、そのカルシウムがどこから供給されるかを調べる目的でカルシウムチャネルであるMCAに注目して研究を行った。mca1 mca2二重変異体では低温ストレス時におけるカルシウム流入が減少しており、MCAが何らかの関わりを示すことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
CMLの役割やICE1におけるCaMBDの役割については明らかにすることができ、CMLの低温シグナル伝達における役割が明らかになってきた。ただ、CMLの低温シグナル伝達の機能を明らかにする目的で、RNAi体は作出していたが、より特異的にCML10, CML12であることを明らかにする目的でCRISPR/Cas9システムによる変異を導入することについては、何度かトライしたが、両方に変異が入った二重変異体は作出することが出来なかった。これは単にCRISPR/Cas9システムが働かなかったのか、二重変異体は致死になるのかは明らかではない。上記のように二重変異体が作出できなかった一方で、低温ストレス時に一過的に上昇するカルシウムの調節にMCAが関わっていることについて明らかにすることができた点は進んでいる点である。これらのことからトータルでおおむね順調に進展していると考えられる。
ICE1の相補体についてであるが、今回、ice1 ice2二重変異体が見せる成長阻害についての相補が見られた。ICE1は低温シグナルや成長、気孔調節、サリチル酸の蓄積に関わることが明らかにされていることから、これらの表現型が全て相補されるのか、それとも一部なのかを明らかにする。この研究により、CaMBDがどの形質に主に関わっているかを特定することが可能となる。また、平成28年度にうまく作製できなかったCRISPR/Cas9システムによるcml10 cml12二重変異体の作出を再度行う。1遺伝子につき2か所以上で切断するとより効率的に切断できる可能性が指摘されていることから、ターゲットとする領域を3か所設定し、そのガイドRNAが作られるようなベクターを構築する。既にcml12変異体は入手済であるので、cml12にベクターを導入して、CRISPR/Cas9システムによりcml10に変異を導入することで、cml10 cml12二重変異体の作出を試みる。二重変異体が作出されたならば、低温ストレス応答のみならず、上記に示した成長、気孔調節、サリチル酸の蓄積等に関しても調べることで、CML10, CML12がどのような形質に主に関わっているかを明らかにする。CML10, CML12とICE1の相互作用が低温ストレスによって、その相互作用が強まることを明らかにしたが、この相互作用が低温ストレス特異的であることを示す必要がある。そこで、カルシウムの一過的上昇パターンが低温ストレス時とは異なる無酸素条件や塩ストレス条件において、ICE1とCML10, CML12の相互作用を調べ、その結合が増強されるかどうかを明らかにする。
当該年度テクニシャンの雇用を予定していたが、勤務時間等の折り合いがつかず、テクニシャンの雇用に至らなかった。また、物品に関しては、既に調達しているもので可能であるとともに、次年度から新しく本研究課題に参加・協力を依頼する博士課程の学生のため、次年度に必要となる物品が増えるものと想定し、今年度の支出を少なくした。
新たに本研究課題に参加する研究協力者の博士課程の学生のため、今後必要となる物品の購入をメインとする。旅費を計上することで、学会等への参加を促す。また、論文を仕上げる予定であるため、論文作成にかかる諸経費(校閲や投稿費など)を支払う予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
PLoS Genet.
巻: 12 ページ: e1006016
10.1371/journal.pgen.1006016
Plant Physiol. Biochem.
巻: 108 ページ: 434-446
10.1016/j.plaphy.2016.08.008
http://www.gene.tsukuba.ac.jp/~kmiura/