研究課題/領域番号 |
16K07390
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
三浦 謙治 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00507949)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物 / シグナル伝達 / 発現制御 / カルシウム |
研究実績の概要 |
転写因子ICE1とカルシウム認識に関わるカルモジュリン様タンパク質CML10、CML12とは相互作用しており、その相互作用は低温によって強まることを明らかにしてきた。また、CML10とCML12をターゲットとしたRNAi体では低温ストレス応答に対して感受性を示すことが明らかになった。CML10およびCML12が低温ストレス応答に関わっていることを直接的に示すために、cml10 cml12二重変異体の作出を試みた。これらの2つの遺伝子は染色体上で隣の位置に存在するため、通常の掛け合わせによる二重変異体の作出はほぼ不可能であるため、cml12変異体にCML10をターゲットとしたゲノム編集を行うことで二重変異体の作出を試みた。まずは、CML10において2か所をターゲットとしたgRNAとCas9を発現できるベクターをcml12に形質転換した。現在、この形質転換体から次世代をとり、実際にCML10に編集がおきているかを調べているところである。
低温ストレス刺激により細胞内のカルシウムが一過的に上昇するが、そのカルシウムの一過的上昇の仕組みを明らかにする目的で、MCA変異体の研究を行った。MCAは機械刺激カルシウムチャネルであるが、mca1 mca2二重変異体では低温ストレス刺激によるカルシウム一過的上昇が減少していた。また、mca1 mca2二重変異体においては低温ストレスに対して感受性を示した。このことから、MCAは低温ストレス時において、細胞内へのカルシウム流入を調節しており、そのシグナルに応答する形で低温ストレスに応答することが示唆された。但し、低温ストレス応答の重要な転写因子であるDREB1遺伝子およびその下流遺伝子の発現量はほとんど変化がなかったことから、DREB1非依存的な低温シグナル伝達機構を調節していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CMLの低温シグナル伝達における役割を明らかにする目的でCRISPR-Cas9による二重変異体の作出を試みている。スクリーニングする数を増やして探索することで二重変異体の作出を目指している。
一方で、カルシウムの細胞内への一過的流入に関わるMCAについては、その流入がMCAによって制御されていること、mca1 mca2二重変異体においては低温ストレス感受性を示すことが明らかになった。
CML二重変異体の作出についてはやや遅れているが、MCAの特徴づけには上手くいき、MCAに関しては論文が掲載された。これらのことからトータルでおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度において、CRISPR-Cas9システムを新たに構築し直してcml10 cml12二重変異体のスクリーニングを大規模に行っており、それらの子孫がとれてきている。その際に編集が起きた場合に、簡便に調べる方法をMultiNAを使って検出する系を立ち上げた。今後は、MultiNAにより、大規模に子孫の編集度合を調べることで、編集がおきた個体の単離を目指す。cml10 cml12二重変異体の作出に成功したならば、低温ストレス応答に異常を示すかどうかを調べる。その際に、氷点下の温度にさらして、その後にどれぐらい生き残るかを調べる生存率検定を行う。また、低温にさらした際にどれぐらいのイオンが溶出しているか、つまり細胞が破壊されて、内部のイオンが出てきた度合で低温ストレス傷害を調べるイオン溶出度検定を行う。これらの検定を行うことで、cml10 cml12二重変異体が低温ストレス応答に関わっているかを明らかにする。
また、ICE1においてカルモジュリン結合ドメイン(CaMBD)を欠損させるとice1 ice2二重変異体における生育阻害を相補できないことが分かっている。CaMBD欠損させたICE1が低温ストレス応答に関わっているかを明らかにする。また、ICE1がそのほかに関わっている気孔調節やサリチル酸蓄積に関わるのかを明らかにすることで、ICE1とCML10, CML12の相互作用がどれぐらい重要な役割を果たしているのか(低温ストレス応答に関わることなのか、もしくはICE1の機能全般に関わるのか)を明らかにすることを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)テクニシャンの雇用を検討していたが、勤務時間の折り合いがつかず、テクニシャンの雇用に至らなかった。予算的には週2回ぐらいの勤務でしか難しい状況であったためである。
(使用計画)当初は予算の関係上、週2回のテクニシャン勤務を考慮していたが、次年度使用額を用いて週4回でテクニシャンの勤務を予定している。既に候補者の選定済である。また、学会等への旅費計上および、論文作成のための諸経費(校閲や投稿費など)を支払う予定である。
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