シロイヌナズナのpect1-4変異株は、非二重膜形成リン脂質であるホスファチジルエタノールアミンの生合成律速段階である、CDP-エタノールアミン生合成活性(PECT1活性)が野生株の26%まで低下し、低温生育阻害や早期花成など、多様な表現型を示す。植物の呼吸はCOX経路(COP; Cytochrome c oxidase pathway)と、そのバイパスとしてAOX経路(AOP;Alternative oxidase pathway)が存在するが、生育5週目のpect1-4変異株ではCOP活性が野生型に較べて40%低下している。したがって、pect1-4変異株は植物の生長や発達における呼吸調節の役割を解析するための新しい実験系として注目される。2018年度までに、pect1-4 aox1a-1二重変異株では、その成長がpect1-4株よりも改善するが、その原因は、ミトコンドリア内膜の外向きNAD(P)HデヒドロゲナーゼNDB2の転写産物レベルが有意に上昇し、COP活性が回復することによることをあきらかにした。2019度は、恒常的活性型AOX1a*を過剰発現するpect1-4 AOX1a*植物を作出し、そのCOP活性が野生型並に回復し、成長も回復することをあきらかにした。さらに、pect1-4植物におけるミトコンドリア活性の低下をさらに検証するために、光呼吸活性の低下を予想し、緑葉のメタボローム解析を実施したところ、光呼吸経路の代謝物の低下を確認した。pect1-4 AOX1a*植物では、呼吸活性が回復し成長が回復するだけでなく、pect1-4の早期花成表現型を部分的に解消した。以上の結果は、pect1-4変異株における多様な表現型の発現には、呼吸活性の低下によるストレス応答経路と、呼吸活性に依存しない非ストレス応答経路が関与することを示唆している。
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