研究課題/領域番号 |
16K07395
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
本橋 令子 静岡大学, 農学部, 教授 (90332296)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 葉緑体タンパク質 / 病害応答 / 虫害応答 / 免疫応答 / 遺伝子破壊株 |
研究実績の概要 |
葉緑体の機能として光合成、脂肪酸合成、アミノ酸合成、亜硝酸還元などが知られている。さらに近年では、葉緑体は病原菌の感染による免疫応答に関わるCa2+シグナル伝達やROS(reactive oxygen species)を発生する場としての機能を持ち、病害応答において病原菌の侵入を認識するシグナルを受けることで免疫応答を誘導することがわかり始めている。そこで、植物の防御応答メカニズムであるPTI(pattern-triggered immunity / PAMP-triggered immunity)を引き起こす、細菌の鞭毛を構成するフラジェリンのN末端に保存されている22個のアミノ酸flg22を用いて、葉緑体の機能と病害応答の関係を解明するため、葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株のスクリーニングを行った。葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株1284ラインから、flg22の感受性株としてDs.190とDs.210、非感受性株としてDs.73が得られた。 病害応答に関与する葉緑体タンパク質の解明と同様に、虫害応答に関与する葉緑体タンパク質を探索するために、葉緑体タンパク質遺伝子破壊株について、ハモグリバエの加害の程度を指標にスクリーニングを行った。まず、老化に関与する葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株、虫食い跡に見えると考えられる斑入り変異体とstay green 変異体を用いて、野生型とハモグリバエの加害の程度を比較した。Stay green変異体の食害は野生型と変わらず、予想に反し斑入り変異体の食害も野生型と顕著に異ならなかった。老化に関与する葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株は、食害が多い傾向が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フラジェリンのN末端にある22個のアミノ酸配列(flg22)を用いて、葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株1284ラインのスクリーニングを行った。2次スクリーニングによって表現型の再現性が得られたラインは16ラインであった。表現型の再現性が得られた16のタグライン(葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株)のアレルを探索し、アレルでの表現型の再現性の確認を行った結果、確認できたものは3ラインであった。3ラインの遺伝子発現をRT-PCRを用いて調べた結果、いずれも転写産物は検出されず、完全な遺伝子破壊株であった。flg22の感受性株としてDs.190とDs.210、非感受性株としてDs.73が得られた。Ds.210ではflg22の受容体FLS2、SA(サリチル酸)合成遺伝子ICS1とWRKY22の発現低下がみられた。また、flg22非感受性株Ds.73、感受性株Ds.190においてWRKY22、WRKY29の発現の変動が観察されたが、発現変動とflg22感受性、非感受性の表現型を説明する情報は得られなかった。 葉緑体タンパク質と虫害応答の解明のために、4週間栽培したシロイヌナズナのロゼット葉を5X5mmの穴をあけたろ紙で覆い、産卵場所を限定し、ハモグリバエ雌成虫を1匹放飼し、24時間自由に食害させ、野生型とハモグリバエの加害の程度比較した。老化に関与するSAG2,SAG12,SEN1,SEN2の遺伝子破壊株、虫に食われたような模様に見える斑入り変異体や黄緑変異体、stay green 変異体を調査した結果、SAG12,SEN2の遺伝子破壊株が特にハモグリバエの加害が少なく、SAG2とSEN1も加害が少なかった。stay green 変異体の加害は野生型と変わらず、斑入り変異体は野生型に比べて加害が多かった。
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今後の研究の推進方策 |
flg22処理のスクリーニングによって得られた3つの病害応答に関与する葉緑体タンパク質の機能解析を行う。まず、各原因タンパク質について、GFP融合タンパク質を作るコンストラクトを作成し、パーティクルガンによりタバコ、又はシロイヌナズナの葉に導入し、各原因タンパク質の細胞内局在を確認し、葉緑体のみに局在するか他のオルガネラにも共局在するのかを調査する。得られた3つの遺伝子破壊株のROSの発生程度を野生型と比較し、病害応答の違いにROSが関与しているのかを調べる。また、3つの遺伝子破壊株の遺伝子発現解析結果がflg22感受性、非感受性の表現型を説明する事ができなかった背景に、flg22処理後の時間が関係していると考えられるため、flg22処理後経時的な発現解析を行う。 葉緑体タンパク質変異体と虫害応答の傾向が明らかになりつつあるため、さらに変異体数を増やし、ハモグリバエの加害の影響を調査する。老化が抑制される変異体や斑入りの変異体の数を特に増やし、加害を調査する。各SAG2,SAG12,SEN1,SEN2の遺伝子破壊株のアレルにおいても同様な加害傾向を示すか調査を行い、データの信頼性をあげる。また、各原因遺伝子の機能の共通性やクロロフィル中間体、二次代謝産物の蓄積について既存のデータの調査及び遺伝子発現解析、代謝産物の解析を行ない、加害を抑制された植物体の代謝産物の蓄積傾向を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費の社会保険料事業主負担分について、誤った金額で支出されたため4,818円分の返金が発生し、次年度使用額が生じた。 未使用分は、翌年度にシロイヌナズナの変異体の原因遺伝子の機能解析実験のための遺伝子発現解析キットを購入することとする。
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