研究課題
ゼニゴケの葉状体切断片からの再生は、頂端側断片からは起こらず、基部側断片からのみ起こる。これまでに再生芽形成がオーキシン含有培地では阻害されることが示されていたことから、傷に由来するシグナルだけでなく、オーキシンレベルの低下が再生に必要であるという仮説が考えられていた。平成28年度はまず、オーキシンが細胞周期再開の前後どちらの過程を抑制するのかについて調べた。EdUアッセイを行ったところ、葉状体切断後18-24時間に起こる表皮細胞のG1期からS期への移行がオーキシン添加により阻害されることが明らかとなった。このことから添加オーキシンは細胞周期再開よりも前の過程で再生を抑制することがわかった。次に葉状体切断から細胞周期再開の過程における内生のオーキシンとサイトカイニンの量を経時的に定量した。その結果、基部側断片において、インドール酢酸(IAA)が切断後3時間で一過的に減少しその後再び上昇すること、サイトカイニン前駆体が大きく減少すること、さらに活性型サイトカイニンも若干低下することが明らかとなった。さらに同様のサンプルを用いて、RNA-seq解析により切断後の経時的な遺伝子発現の変動を調べた。細胞周期関連遺伝子の発現は12時間目まで一定で24時間目で上昇したことから、実験は成功したと判断した。解析の結果、オーキシン生合成遺伝子の発現も切断後3時間で一過的に減少しその後再び上昇することがわかった。サイトカイニンに関しては、生合成遺伝子と不活化酵素遺伝子のどちらもが発現上昇した。以上のことから、切断後に起こる一過的なオーキシンレベルの低下とサイトカイニンの合成と代謝の活発化が、再生の制御に関わっている可能性が示唆された。また、RNA-seq解析において基部断片特異的に変動する転写因子やエピジェネティクス関連因子などが見出された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度に予定していた主要な解析は行うことができた。外部オーキシン添加により再生芽形成が抑制されることから、基部側断片においてオーキシンレベルが低下することが予測されていたため、RNA-seq解析とホルモン定量解析によりそれが一過的に起こることが示された意義は大きい。
平成29年度は、オーキシンで処理した切断片サンプルを用いてRNA-seq解析を行うとともに、候補遺伝子について定量的RT-PCRを行うことにより、オーキシン低下に応答して基部断片特異的に発現が低下する遺伝子を同定する。さらにRNA-seq解析により基部断片特異的に発現上昇することが見出された遺伝子についても、定量的RT-PCRを用いてより詳細に発現変動およびオーキシン応答性を調べる。特に興味深い変動を示す遺伝子について、CRIPSR/Cas9ゲノム編集法を用いて機能欠損株を作出していく。植物ホルモンの信号伝達や代謝に関わる遺伝子の逆遺伝学的な解析は、必要な株の作出を進めており、今後順次実験を行っていく。新奇関連遺伝子の単離を目指す順遺伝学的解析についても進めていく。
オーキシン処理をした切断片を用いたRNA-seq解析、および順遺伝学的な変異体探索を予定していたが、サンプル調製と解析に時間がかかるため実行することができなかった。
上記実験を行う。
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Plant Cell Environ
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/pce.12908
Plant Cell
巻: 28 ページ: 1406-1421
10.1105/tpc.15.01063