研究課題
ゼニゴケの葉状体を切断し、頂端を含む断片(頂端断片)と含まない断片(基部断片)に分けて植物ホルモンフリー培地で培養すると、基部断片においてだけ葉状体の再生がみられる。頂端断片はそのまま頂端からの成長を続け、切断面から再生は起こらない。以上のことから、頂端から産生される拡散性物質により細胞が脱分化が抑制されており、その物質が植物ホルモン・オーキシンであるとの仮説を立て、検証している。実際、オーキシン含有培地では再生は抑制される。昨年度は、ゼニゴケ葉状体を切断後に経時的にサンプリングを行い、植物ホルモンの定量とRNA-seq解析を行った。植物ホルモン定量の結果、基部断片における一過的なオーキシン濃度の低下とサイトカイニン代謝速度の上昇が明らかになった。本年度はまず、オーキシン信号伝達経路の関与を調べた。ゼニゴケのAUXIN RESPONSE FACTOR遺伝子の破壊株や、非分解型AUX/IAAの核蓄積を誘導できる株では、オーキシン含有培地でも再生芽形成が見られたことから、オーキシン依存的な遺伝子発現が再生抑制に関わっていることが明らかとなった。またRNA-seqのデータ解析を行い、オーキシン濃度が低下したタイミングで、頂端断片に比べて基部断片において有意に発現変動する遺伝子が約3,000個あることを明らかにした。それらの中から、オーキシン濃度低下に依存して発現変動するある転写因子遺伝子を見出すことができた。この遺伝子の発現は切断後1時間で基部断片においてのみ誘導されたが、オーキシン添加条件では誘導が抑制された。また、これを過剰発現すると未分化な細胞が増加したことから、細胞のリプログラミングに関与する遺伝子であることが示唆された。しかしながら、この遺伝子をCRISPR/Cas9系を用いて破壊しても、再生に顕著な異常は見られなかった。冗長的に機能する転写因子の存在が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的を達成すべく、地道ではあるが着実に進展していると判断している。
最終年である本年度は、昨年度に同定した転写因子(ここではTF-Aと呼ぶ)の機能を中心に解析を行う。まず、その発現が葉状体切断後どのタイミングでどの細胞において誘導されるのか解析する。プロモーター・レポーター形質転換株や、蛍光タンパク質との融合タンパク質を発現するノックイン株を作出し解析に用いる。また通常の発生においてどのような細胞で発現しているのか調べる。次に、TF-Aの変異体や機能改変株を用いてRNA-seq解析を行い、標的遺伝子候補を同定する。また、ゼニゴケにおけるクロマチン免疫沈降(ChIP)実験手法を現在確立しているところであり、完了次第ChIP-seq解析にも着手する予定である。さらに、昨年度の研究から推定されている、TF-Aと冗長的に機能する転写因子を同定する。RNA-seq解析においてTF-Aと似た発現変動を示す遺伝子や、同じ転写因子ファミリーに属する遺伝子を候補として、二重変異体を作出し表現型から協働性を判断する。また、時空間的発現パターンにも着目して解析をすすめる。オーキシンやサイトカイニンが、これらの遺伝子発現調節にどのように関わるかについても、合成酵素、代謝酵素、信号伝達因子などの機能改変株を用いて調べる。またゼニゴケで機能するオーキシンやサイトカイニンの応答レポーターを作製し、葉状体切断後における時空間的な応答パターンを明らかにする。
予想していたペースでRNA-seq解析を行わなかったため、試薬購入代が当初の計画を下回った。翌年度は、RNA-seq解析を進めるとともに、ChIP-seq解析にも取り組む計画を立てており、翌年度分として請求した助成金と合わせた額を使用する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
Current Biology
巻: 28 ページ: 479~486.e5
10.1016/j.cub.2017.12.053
Cell
巻: 171 ページ: 287~304.e15
10.1016/j.cell.2017.09.030
Journal of Experimental Botany
巻: 69 ページ: 291~301
10.1093/jxb/erx267
Plant and Cell Physiology
巻: 58 ページ: 1642~1651
10.1093/pcp/pcx095