研究課題/領域番号 |
16K07399
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山野 隆志 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (70570167)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 重炭酸イオン輸送体 / CO2シグナル伝達 / Ca2+シグナル伝達 / クラミドモナス / 無機炭素濃縮機構 |
研究実績の概要 |
本研究では、藻類の重炭酸イオン輸送におけるCa2+とCO2シグナル伝達のクロストーク制御を、カルシウム結合タンパク質CASとCO2濃縮機構(CCM)のマスター因子CCM1の解析を中心に明らかにすることを目的とした。今年度は以下のことを明らかにした。(1)大腸菌で発現させたクラミドモナスCASの全長、N末端、C末端配列について、放射性同位体Ca45を用いたin vitro結合実験を行い、CASのN末端にCa2+が結合することを明らかにした。(2)GFPをCASのC末端に融合させたタンパク質をCAS変異株に発現させたところ、その表現型を相補した。これを用いてin vivoにおけるCASの局在を調べたところ、CASはCCMが誘導されるCO2欠乏条件ではCO2固定酵素Rubiscoが集積するピレノイドに局在し、特にチラコイド膜が貫入したピレノイドチューブに沿って局在することが強く示唆された。CCMが誘導されない高CO2条件では葉緑体全体に分散することを明らかにした。(3)CCMの制御とカルシウムの関係を明らかにするために、Ca2+特異的阻害剤BAPTAの添加実験を行った。BAPTA処理により、CO2欠乏条件における重炭酸イオン輸送体HLA3とLCIAの蓄積が減少し、それに伴って無機炭素への親和性が低下することを明らかにした。またカルモジュリンアンタゴニストW7の添加によっても同様の表現型が見られたことから、重炭酸イオン輸送体の制御にCO2だけではなくCa2+シグナル伝達が関わることが明確になった。(4)野生株、CAS変異株、相補株のRNA-seqデータを解析し、CASがHLA3とLCIAを含む多くの核コード遺伝子を制御することを明らかにし、CO2濃縮の制御における葉緑体から核へのレトログレードシグナルを提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クラミドモナスにおけるCO2濃縮機構の制御にカルシウム結合タンパク質CASが関与することを初めて明らかにし、論文が受理された(Wang et al. PNAS)。葉緑体に局在するCASが、重炭酸イオン輸送体遺伝子を始めとする多くの核コード遺伝子群を制御することが明らかになり、CCMの制御におけるレトログレードシグナルを初めて提唱することができた。一方で、CASのC末端にGFPなどのタンパク質を融合させるとその安定性が著しく損なわれる、Ca2+センサータンパク質カメレオンがクラミドモナスで発現しないなどの問題も分かりつつあり、今後の検討が必要である。以上の理由から、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は以下のことを明らかにする。(1)CASはカルシウム結合領域の他に疎水性領域とRhodanese-likeドメインを持つがその機能は明らかでない。それぞれのドメインを削ったtruncateなCASタンパク質を変異株で発現させ、その局在や表現型を観察する。(2)CAS-GFPの不安定性の原因を明らかにする。(3)マイクロ流体デバイスを用いてクラミドモナスの1細胞観察を行う。特に流入させる培地中のCO2 濃度やCa2+キレート剤の添加の有無を変化させた時のCAS-GFPの局在変化をリアルタイムで観察する。(4)光とCO2に応答したCASの局在変化に関わる因子を同定するために、CAS-GFP発現株のゲノムに薬剤耐性遺伝子をランダムに導入し、局在が異常になった株をスクリーニングする。これを1株ずつ観察し、原因遺伝子を同定する。(5)CO2欠乏条件におけるCAS複合体を精製し、相互作用するタンパク質を同定する。(6)LCIA 遺伝子のプロモーター配列を用いてルシフェラーゼ活性を検出できるレポーターアッ セイ系を構築する。これに薬剤耐性遺伝子をランダムに導入し、100,000 株の形質転換株からルシフェラーゼ活性が低下した変異株をスクリーニングする。変異株の原因遺伝子を同定することで、CO2濃縮の制御において葉緑体と核をつなぐレトログレードシグナル因子の候補を同定する。(7)活性酸素、酸化還元電位、テトラピロール中間体(Mg-ProtoIX)などがレトログレードシグナルとして働いている可能性を考え、活性酸素処理、活性酸素消去剤(TEMPOL)処理、 種々のテトラピロール添加、Mg-ProtoIX 合成阻害剤などの添加による表現型を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初想定していなかった人件費・謝金、その他に支出が発生し、物品費や旅費の支出に変更が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度の物品費に補填する。
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