研究課題/領域番号 |
16K07402
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
久保 稔 奈良先端科学技術大学院大学, 研究推進機構, 特任准教授 (30342778)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テンションウッド / 細胞壁 / G層 / 網羅的遺伝子発現解析 / ポプラ / 次世代シーケンシング |
研究実績の概要 |
広葉樹の木部組織が特異的条件下で作り出すテンションウッド(引張アテ材)においては、G層と呼ばれるリグニンがない純粋なセルロース繊維を産生するが、その詳しい分子機構はいまだ明らかになっていない。これまでに本研究課題ではポプラ挿し木苗のテンションウッド誘導過程での継時的な網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)を行い、テンションウッド形成過程で特異的な発現を示す1881個の遺伝子を明らかにした。これら遺伝子の発現データを用いたデータマイニングにより、テンションウッド形成時に発現が上昇する転写因子50個を選定し、そのうち10個についてはcDNAの単離を行った。また、テンションウッドの特徴であるG層は木部繊維細胞にだけ見られる特別な二次細胞壁である。そこで、木部繊維細胞に細胞分化を誘導したあと、上記で選定した転写因子を働かせることでG層形成が誘導できるのではないかと考えた。木部繊維細胞を人為的に誘導できるコンストラクトPtVNS11-GRを作成するために、ポプラで恒常的発現を示す遺伝子からそのプロモーター配列を特定し、木部繊維細胞誘導系の確立を進めた。さらに、テンションウッドマーカーとなりうるG層マーカーの作成を行うために、G層形成時に特異的な発現上昇を示す11個の遺伝子について、それらの遺伝子とプロモーター領域を特定し、プロモーター配列にGFPやGUS遺伝子をつなげたコンストラクトの作成に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度においては以下の研究を中心に行った。 培養細胞における木部繊維細胞分化誘導系の構築 テンションウッドの特徴であるG層は木部繊維細胞でのみ観察されることから、木部繊維細胞誘導系コンストラクトの作成を行った。既存のグルココルチコイドレセプター(GR)誘導系はカリフラワーモザイクウィルス由来の35Sプロモーターを用いて目的のGR融合タンパクを発現させるが、ポプラでは35Sプロモーターの発現誘導能が低いこと、全ての細胞・組織での発現が見られないことが報告されている。そこでゲノム情報が公開されているポプラの1種Populus trichocarpaから、恒常的発現が報告されているユビキチン、GSK3遺伝子についてプロモーター領域をクローニングし、これを35Sプロモーターと入れ替えた新規のGR誘導系ベクターを構築した。このベクターの有効性を確認するために、核移行シグナルを持つGFP-GUS融合タンパク(NLS-sGFP-GUS: NGG)遺伝子または、PtVNS11遺伝子を組み込んだベクターを作成し、タバコ培養細胞やポプラの1種であるギンドロ培養細胞への導入を進めている。 テンションウッドマーカー株の作成 ポプラ挿し木苗のテンションウッド誘導過程での継時的なRNA-seq解析の結果から、通常木部での発現が低く、G層形成時に特異的な発現上昇を示す11個の遺伝子を選定した。これらについて、コーディング領域(CDS)とプロモーター領域を特定し、プロモーター配列にGFPやGUS遺伝子をつなげたG層マーカーコンストラクトの作成に着手した。
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今後の研究の推進方策 |
G層形成のマスター制御因子の探索を遂行するために、引き続き、培養細胞において木部繊維細胞誘導系の確立を進める。これまでの計画では、ポプラの安定形質転換体によるテンションウッドマーカー株の作成を進めていたが、迅速にかつ、多様な条件での実験系を可能にするために、一過的遺伝子発現系を利用したG層形成のマスター制御因子の探索を試みる。そのため、タバコ培養細胞やギンドロ培養細胞のプロトプラストに、木部繊維細胞を誘導するPtVNS11-GRコンストラクト、G層マーカーコンストラクトを同時に導入し、デキサメタゾン(DEX)依存的な木部繊維細胞の形成の確認と、G層マーカーの発現の有無について確認する。その一過的遺伝子発現による木部細胞誘導系を利用して、そこにテンションウッド関連転写因子の高発現コンストラクトを同時に導入し、G層マーカーの発現及びG層の形成の有無について観察する。これらに加えてアグロバクテリアを介したインフィルトレーション法により、、ベンサミアナタバコにおいて一過的に遺伝子導入を行い、前述の場合と同様に、G層マーカーの発現及びG層の形成の有無について観察する。G層形成を誘導する遺伝子についてはin situハイブリダイゼーションやプロモーターGUS形質転換体による発現部位・時期の観察や、ポプラにおける誘導的遺伝子発現株を作成することで、さらなる機能解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度計画していた木部繊維細胞分化誘導系の構築について、ポプラ等で恒常的発現する遺伝子を選定し、それらのプロモーター配列のクローニングを行ったが、繰り返し配列の存在などの影響でそれを用いたベクターの作成に時間を要した。そのため、ギンドロ培養細胞やタバコ培養細胞を用いた実験に使用する培養試薬・器具類、分子生物学関連試薬・器具類の購入にかかる経費の一部を次年度使用に繰り越すことにした。繰り越した経費は、今後、培養細胞を利用した一過的遺伝子導入による木部繊維細胞誘導系の確立と、それを用いたテンションウッド関連転写因子の一過的導入によるG層形成のマスター制御因子の探索に利用予定である。
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