テンションウッド(引張あて材)は広葉樹が倒れた場合に、その姿勢を立て直すために作る特殊な木部組織であり、重力とは反対方向への屈曲、倒れた幹の木部組織における偏心成長、木部繊維細胞における高純度セルロースに富んだG層と呼ばれる細胞壁の蓄積、が起こることが知られている。しかし、その形成における分子機構は未だほとんど明らかになっていない。これまでに本研究課題では無菌的に培養したポプラ挿し木苗を用いてのテンションウッド誘導系を確立した。さらに、その過程における継時的な網羅的遺伝子発現解析 (RNA-seq)を行った結果、テンションウッド形成過程で発現が変動する1880個の遺伝子の同定に成功した。これらの結果をもとに、テンションウッドマーカー株の作成を行った。G層で特異的な発現上昇を示す11個の遺伝子を選定し、そのうち、ファシクリン様アラビノガラクタンタンパクをコードする遺伝子の上流にあるプロモーター配列をクローニングし、レポーター遺伝子をつないだコンストラクトを作成したのち、これを用いたポプラの形質転換体を作成した。また、G層形成のマスター制御因子の探索を行うために、発現変動遺伝子を用いた階層クラスタリングを行なった結果、テンションウッド形成過程で特異的に発現上昇する3つのクラスターを得ることができ、その中に含まれる33個の転写因子を同定した。これらについて、cDNAを単離し、条件的遺伝子発現誘導系を用いたコンストラクトの作成に着手した。
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