研究課題/領域番号 |
16K07405
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小塚 俊明 広島大学, 理学研究科, 助教 (20402779)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 老化 / フィトクロム / 青色光受容体 / PIF / エチレン / 光環境 / HD-Zip |
研究実績の概要 |
本研究は光受容体による葉老化の遺伝的制御メカニズムの解明を目的とする。これまでに、光受容体フィトクロムを速やかに不活性化するEnd-of-day Far-red light 処理 (EODFR) によって、葉老化が顕著に促進される生理条件を見出した。さらに、同実験条件下において様々なフィトクロム結合因子PIFファミリーの変異体を解析したところ、PIF機能欠損型変異体において老化が遅延したこれらの結果より、同条件下においてフィトクロム-PIF経路によって葉老化が大きく制御されることが示唆された。 さらに、PIFによって遺伝子の転写が活性化されるHD-Zip型転写因子の過剰発現体ではEODFR未処理の葉であっても、EODFR処理した葉と同様に老化が促進された。さらに、HD-Zip過剰発現体の葉にエチレン受容体阻害剤を処理すると葉老化が顕著に抑制された。過去に、PIFの下流ではエチレン合成の増加によって葉老化が促進されることが報告されている。これらの解析より、HD-Zipの下流においてエチレン合成に関与する制御が存在すると推測される。 一方、葉に青色光を照射することにより、葉老化が十分に抑制されることが解った。そこで、青色光受容体の各機能欠損変異体を用いて、葉老化の解析を行った。その結果、青色光受容体の多重変異体では、葉が青色光を吸収しても老化を抑制できなかった。従って、青色光受容体が葉老化制御に関与することが示唆された。 これまで、葉老化制御に関わる青色光応答シグナル因子について不明な点が多い。そこで、産業総合技術研究所が開発したCRES-Tライブラリーを用いて、青色光応答による葉老化スクリーニングを実施した。その結果、青色光応答特異的な葉老化表現型を示す12系統を新たに単離した。今後、これらの系統を解析することで、葉老化制御に関与する新奇青色光シグナル因子の発見が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、2016年度10月以降に採択が決定された事情のため、研究開始が通常より半年以上遅れた。従って、計画当初の予定より進捗状況がやや遅れているが、現在までに新奇老化制御因子として光受容体フィトクロムのシグナル因子であるPIF/HD-ZIP経路の発見、青色光受容体の老化抑制機能の解明など、葉老化制御メカニズムにおける重要な知見が得られた。 また、本研究における当初の計画として、葉老化に関わるHD-ZIP下流の遺伝子発現制御ネットワークを解析するため、大規模なトランスクリプトーム解析を実施する予定であった。そのため、エストラジオールによる転写誘導実験系を用いて、GFP-HD-ZIPをエストラジオール処理によって発現誘導する形質転換体 (XVE::GFP-HD-ZIP) を作出し、これまでに複数のT3系統を得た。これらのXVE::GFP-HD-ZIP形質転換体の葉を用いて、エストラジオール含有培地上で培養したが、培地に接触した葉の辺縁部や維管束ではGFP蛍光の増加が観察されたが、葉肉細胞では顕著なGFP蛍光の増加が検出されなかった。また、エストラジオールをスプレーによって散布処理した場合でも、同様の結果であった。これらの結果より、葉肉細胞においてエストラジオール処理によってGFP-HD-ZIPを発現誘導することが困難であると考えられた。 そこで、葉内部への浸透が容易で且つ切除葉への処理が簡便な、アルコール処理による誘導可能な転写制御系 (alcR/A::GFP-HD-ZIP) の作成を進めた。まず実験を行ううえでの条件検討として、GFP単独を発現する alcR/A::GFP を導入した形質転換植物体を作出してアルコール誘導を行った結果、葉全体における速やかなGFP蛍光の上昇が認められた。そこで、今後はalcR/A::GFP-HD-ZIPコンストラクトを植物体に遺伝子導入して、形質転換体の作出を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題における平成29年度の実施計画として、葉老化に関わるHD-ZIP遺伝子下流の遺伝子発現制御ネットワーク解析と、CRES-Tスクリーニングから単離された青色光応答による葉老化制御が欠損した系統の詳細な解析を行い、植物の葉老化を制御する新たな光応答分子機構を明らかにする。 まず、前年度からの継続としてアルコール処理による誘導可能な転写制御系 (alcR/A::GFP-HD-ZIP)の形質転換植物体を作出する。さらに、HD-ZIPの発現を直接促進する転写因子PIFについても、HD-ZIPと同様にアルコールによる転写誘導系 alcR/A::HA-PIF形質転換植物体を作出する。これらの形質転換植物体を用いて老化実験においてアルコール処理による発現誘導を行い、PIF/HD-ZIP依存的な遺伝子発現変動をゲノム網羅的なRNAシーケンスにより解析する。さらに、alcR/A::GFP-HD-ZIPとalcR/A::HA-PIFとを比較解析することにより、共通して変動する遺伝子についてPIF-HD-ZIP経路の下流で制御される遺伝子グループとして選抜する。プローモータ解析を併用することにより、HD-ZIPのダイレクトターゲット候補因子を絞り込む。 また、CRES-Tライブラリーのスクリーニングにより、青色光応答による葉老化制御に関わる新奇因子の単離・解析を進める。これまでに単離したCRES-T の12系統について、SRDXが付加された遺伝子配列をシーケンスし、配列情報から遺伝子を特定する。さらに、これらの候補遺伝子について、シロイヌナズナストックセンターよりT-DNA変異体を取得し、老化表現型を解析する。遺伝子ファミリーを形成する場合には、多重変異体を作出する。また、タンパク配列を用いて機能を推定し、細胞内局在や相互作用因子の解析を進める。これらの解析により、葉老化制御に関与する新奇青色光シグナル伝達機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題は、2016年度10月以降に採択が決定された事情のため、研究開始が通常より半年以上遅くなった。そのため、計画当初の予定に比べて進捗状況がやや遅れている。次年度使用額が生じた具体的な理由として、実験計画として予算申請していた転写誘導系形質転換体を用いた大規模なトランスクリプトーム解析について、昨年度は実施するに至らなかったことが主として挙げられる。 また、計画ではエストラジオールによる転写誘導系の形質転換体を用いた大規模なトランスクリプトーム解析について、転写誘導系形質転換体 (XVE::GFP-HD-ZIP)を用いる予定であったが、エストラジオール処理による発現誘導が葉の一部でしか認められないことが判明した。そのため、すぐさまアルコール処理による転写誘導系のGFP形質転換体を作出し、GFP単独では葉全体で速やかに誘導できることを確認した。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度において実施できなかったRNAシーケンス法によるトランスクリプトーム解析を行う。そのため、速やかにアルコール処理転写誘導系による形質転換体 (alcR/A::GFP-HD-ZIP) を作出する。また、PIFについても同様の転写誘導形質転換体 (alcR/A::HA-PIF) を作出する。これらの形質転換体を用いたトランスクリプトーム解析し、PIF と HD-ZIP の発現上昇に伴う遺伝子発現変動をゲノムワイドに解析することにより、PIF-HD-ZIP経路によって発現制御される遺伝子ネットワークを解析する。 また、CRES-Tスクリーニングによって単離された青色光応答による葉老化制御に関わる新奇因子の単離・解析を進める。これまでに単離したCRES-T の12系統について、SRDXが付加された遺伝子配列をシーケンスし、配列情報から遺伝子機能を推定し、細胞内局在や相互作用因子の解析を進めることにより、葉老化制御に関与する新奇青色光シグナル伝達機構を明らかにする。
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