研究課題/領域番号 |
16K07411
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
真野 弘明 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 特別協力研究員 (80376558)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オジギソウ / 運動 / カルシウム / イメージング / CRISPR/Cas9 / トランスジェニック / 情報伝達 / プラズモデスマータ |
研究実績の概要 |
1.昨年度までの研究により、おじぎ運動への関与が予想される15の候補遺伝子の同定、CRISPR/Cas9システムを用いた当該遺伝子群の機能欠損オジギソウ変異体の作出、および簡易的なロボットを利用したおじぎ運動の定量的解析システムの開発を行った。これらの成果をもとにして、本年度はオジギソウ変異体の運動性能の評価を行い、各候補遺伝子が実際におじぎ運動に寄与しているかどうかを調べた。その結果、3つの遺伝子の変異体において、おじぎ運動のスピードや葉の可動範囲が有意に減少することを明らかにした。カルシウムイメージング解析により、変異体の1つでは運動細胞間の高速同調が損なわれていることが判明し、当該遺伝子が細胞間の情報伝達に関与している可能性が示唆された。以上の結果により、おじぎ運動に実際に関与する遺伝子を世界で初めて同定することに成功した。 2.おじぎ運動では「細胞膜を超えて放出される水の速度が速すぎる」という議論が長らく存在し、未解明課題の1つとなっている。本研究では当初、この点に関して「個々の細胞からは実際には水はそれほど多くは放出されず、体積変化を伴わない変形により運動が増幅される」という作業仮説を立てていた。しかし、初年度に行った運動器官の全細胞イメージングの結果から、「個々の運動細胞は変形ではなく、実際に大きく収縮している」ことが明らかとなり、上記の仮説は否定された。今回、測定事実をもとにおじぎ運動の力学的メカニズムを再検討した結果、「水の大部分は細胞外へと放出されるのではなく、細胞間連絡(プラズモデスマータ)を介して細胞から細胞へと移動する」と仮定すれば、細胞膜を超える水の移動を抑えつつ、局所的には大きな収縮を起こせるのではないかという新規仮説の着想に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究は研究計画調書に記載の研究目的に沿って遂行されたが、研究実施計画の細部に関しては年次計画とは異なったものとなっている。その理由としては、研究の進展により当初計画よりも明らかに優先度の高い研究計画(研究実績の概要の1.)が立案されたためである。同定したオジギソウ運動関連遺伝子群に関しては未発表成果であるため詳細の公表を控えるが、これらの遺伝子機能や表現型は運動メカニズム全般に関して非常に示唆に富むものであり、本研究の完成時には多方面に大きなインパクトを与えるものになると期待している。一方で、初年度より継続して行っている全組織イメージングに関しては、作業仮説の否定により一時的に攻め手を欠く状態となっていたが、今回新たな仮説の着想に至り(研究実績の概要の2.)、新しいアプローチによる研究展開が可能になった。以上のように、本研究では状況に応じて柔軟に研究計画の変更を行いながらも、必要な部分、すなわち未解明の謎が残されている部分に関しては当初計画に忠実に粘り強く研究を進めており、全体として研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により同定した運動関連遺伝子群に関して、より詳細な機能解析を行う。具体的には、当該遺伝子の過剰発現系統の作出や関連遺伝子のCRISPR/Cas9による機能欠損、およびin vitroにおける遺伝子産物の機能解析を行う。これらの結果をもとに、当該遺伝子がおじぎ運動において果たす役割を解明し、その成果を論文としてまとめ発表を行う。プラズモデスマータを介した水の移動に関しては、蛍光トレーサー分子を運動細胞に導入する実験を新たに行い、おじぎ運動に伴ってそれらが細胞間を拡散する様子を解析することによりその実証を行う。また、RNA-seq解析によって運動器官に選択的に発現するプラズモデスマータ関連遺伝子が同定されており、CRISPR/Cas9によるその機能解析も併せて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、研究計画の変更に伴い、すでに樹立した変異体および開発済みの解析装置を使用した表現型解析がおもな研究内容となったため、機器類や消耗品等の購入にあまり多くの経費がかからなかったためである。 次年度の予算使用計画としては、まず本年度の研究成果により新たに多数の遺伝子改変オジギソウの作出が計画されており、これまでに作出した系統と併せるとその数は非常に膨大なものとなることが予想される。そのため、これらの安定的な維持のために世話を行う実験補助員の雇用が必要不可欠と考えられる。また、次年度は実験内容の中心が各遺伝子産物の機能解析へと移行するため、個々の遺伝子産物の機能解析に必要な試薬や機器類を新たに購入する必要性が生じ、多額の出費が予想される。さらに、次年度には得られた成果についての論文投稿に関する諸費用も必要になる。次年度使用額は以上の目的に使用する予定である。
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