研究課題
研究代表者はこれまでの先行結果をもとに、シロイヌナズナのアクチン脱重合因子ADFが、細胞核の構造制御を介して病害応答に関わる遺伝子発現の制御を行っている、という仮説を立てている。本研究課題はこの仮説の検証を目的としており、遺伝子発現制御に関する新たな機構を解明し、また植物病害の新しい防除法確立につながる基盤研究としての意義を持つ。上述の目的のため、本年度は、(1)ADFの欠損が細胞核形態に与える影響についての形態学的解析、(2)ADFの欠損が遺伝子発現に与える影響についてのマイクロアレイ解析、の2つの解析を中心に進めた。(1)については予備実験において、同じサブクラスに属する4つのADF、ADF1-4すべての発現を抑制した株で、成熟葉の細胞核ヘテロクロマチンサイズが減少することを示していた。本年度は画像定量解析により、このADF1-4発現抑制株におけるヘテロクロマチンサイズの減少を定量的に示した。またこのヘテロクロマチンサイズの減少が、芽生えの時期の根や子葉では見られないことを明らかにした。この結果は、ADF1-4の発現が、芽生えよりも成熟器官で上昇している事実と合致している。また本年度は、細胞核の形態をさらに詳細に解析するため、ADF4欠損変異体adf4およびADF1-4発現抑制株と細胞核構造マーカーラインとの掛け合わせを進めた。(2)については、野生株およびadf4、ADF1-4発現抑制株の、病原体非感染葉・感染葉のcDNAを用いてマイクロアレイ解析を行い、adf4で100以上、ADF1-4発現抑制株で500以上の遺伝子が、それぞれ発現上昇・減少を示すこと、発現上昇を示す遺伝子数よりも発現減少を示す遺伝子数のほうが多いことを明らかにした。GO解析の結果、これら発現減少を示す遺伝子には、病原体応答や免疫応答関連の遺伝子が多く含まれていることが明らかになった。
3: やや遅れている
当初の計画では、本研究課題の初年度である平成28年度、ADF変異体の細胞核形態解析や、変異体と細胞核マーカーラインとの掛け合わせによるホモラインの確立まで行う予定だったが、昨年4月に所属機関において形質転換植物体の流出が発生し、その後半年に渡って形質転換植物体を使った実験が禁止になったため、全体的に実験の進行がやや遅れている。また当初、病原体を使った解析には、ADF欠損株が抵抗性の上昇を示すことを明らかにしている糸状菌病原体うどんこ病菌を用いる予定だったが、うどんこ病菌実験の協力を仰いでいた奈良先端大西條研究室でうどんこ病菌が全滅したため、この実験の遂行が不可能になった。これについては現在、西條研究室で扱っている別の糸状菌病原体を用いた実験を計画している。
今後は当初の研究計画に沿って、細胞核形態マーカーラインを用いたADF欠損変異体の細胞核形態についての詳細な解析、核内アクチン繊維可視化ラインの確立とそのラインを用いた観察を進める。また、マイクロアレイ解析で明らかになった、ADFによる発現制御を受ける候補遺伝子について、定量的RT-PCR解析を含む詳細な解析を行う。当初計画していたうどんこ病菌感染実験については、上述の通り遂行が不可能になったため、現在異なる糸状菌病原体(アブラナ科炭疽病菌)を用いた実験を進めているが、ADFの欠損変異体がこの病原体に対して表現型を示さない場合、うどんこ病菌を維持しているアメリカ合衆国のラボと共同研究を確立することにより、当初の計画を進めることも計画している。
マイクロアレイ解析については、当初それぞれのサンプルについて3回の異なる実験を計画していた。しかし平成28年度、所属機関において長期間遺伝子組み換え植物体実験が停止されたこと、および、予定していた病原体実験の遂行が不可能になったことから、以前抽出していた実験2回分のRNAを用いてアレイ解析を行った。このため、アレイ解析に使用する予定だった予算の一部が今年度未使用となった。また、細胞核形態の定量解析については当初外注を計画していたが、ABiS(先端バイオイメージング支援プラットフォーム)の支援を受けることが決定したため、この予算分が未使用となり次年度に回した。
現在行っているアブラナ科炭疽病菌を用いた実験で、ADF欠損変異体が表現型を示すことが確認できれば、その系を用いた実験を進める予定である。表現型が確認できない場合、うどんこ病菌を維持しているアメリカ合衆国のラボと共同研究を確立し、当初計画どおりの実験を進める。次年度使用額はそのいずれかの実験に使用する予定である。
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