研究課題/領域番号 |
16K07421
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
塩尻 信義 静岡大学, 理学部, 教授 (70162568)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肝再生 / 肝幹細胞 / 胆管 / TNFα / 門脈結紮 |
研究実績の概要 |
本研究では、マウス成体肝臓において胆管増生または肝前駆細胞増殖を顕著に誘導できる実験系の開拓とそのメカニズムの解明を行うことを目的とする。成体肝臓で特定の肝葉に行く門脈を結紮すると、その肝葉は栄養枯渇で萎縮する一方、残りの肝葉では肝再生に加え、顕著な胆管増生または肝前駆細胞増殖がおこるとされる。平成29年度は、前年度に引き続き門脈結紮後の肝再生を免疫組織学的に解析し、部分肝切除を含め他の再生系と比較するとともに、TNFα受容体欠失マウスに門脈結紮手術を行いTNFαシグナル関与の有無を調べた。今年度に得られた結果は次のとおりである。 (1)部分肝切除及び、アセトアミノフェンまたは3,5-ジエトキシカルボニル-1,4-ジヒドロコリジン [DDC]による肝障害実験を行い、DDC処理の場合は肝前駆細胞増殖が著しいことを確認した。アセトアミノフェン障害の場合は中心静脈域性肝細胞壊死に加え、程度は低いものの肝前駆細胞の増殖がおこっていた。部分肝切除系の場合、肝前駆細胞の増殖はおこらないが、肝細胞の増殖活性が他の再生系に比べ著しく高いことがわかった。 (2)門脈結紮実験では、1日後に、門脈結紮を行った肝葉で広範な壊死がおこった。3日後には約20%、7日後には50%、肝臓容量が減少した。それと平行し、門脈結紮を行わない肝葉で再生がおこった。肝細胞は3日後に分裂が顕著であった。門脈周囲に胆管が増生したが、DDC処理とは異なり肝実質部に侵入する肝前駆細胞の増殖は認められなかった。 (3) TNFα受容体遺伝子欠失マウスにおいて門脈結紮手術を施したところ、肝細胞壊死は門脈を結紮した肝葉で野生型より遅れておこった。門脈結紮による肝葉の退縮にTNFαシグナル経路が関わる可能性がある。遺伝子欠失個体は術後数日で死亡する個体が多い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
門脈結紮手術の確立に初年度目に予想以上に時間を要したため、解析は遅れ気味である。門脈結紮手術は極めて難しく熟練が必要な手術であるが、すでにマスターできたので、今年度以降、機動的に研究を推進していけるものと考えている。組織学的解析、免疫組織学的な解析などについては問題なくデータを得られる状態にある。一方、TNFα受容体遺伝子欠失マウスはその繁殖効率が悪く、これについてもコロニーサイズを大きくしたり、交配の組合せを工夫することで遺伝子欠失個体を効率よく得て、研究を進めていく必要がある。TNFα受容体遺伝子欠失マウスに対する門脈結紮手術も注意を要し、術後数日で死亡する個体が頻度高く出てきており、これが遺伝子欠失の効果なのかどうか、慎重に解析する必要がある。成果としては、門脈結紮による肝再生の特徴とTNFαシグナルの関わりが新たに明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
門脈結紮手術の確立に時間を要したが、手技はマスターできたので、機動的に今後は研究を推進していく必要がある。また門脈結紮による肝再生の場合は、胆管増生が期待ほどには顕著ではなかったので、肝前駆細胞の増殖が顕著とされるDDCやアセトアミノフェン処理による肝障害系でも系譜解析を行っていったほうがいいように思われる。肝再生系における細胞系譜の解析のアプローチとして、肝臓でのオルニチントランスカルバミラーゼ酵素の発現がモザイク状になるspfashへテロ型マウスを用いてモザイク解析を行うことも検討していく必要がある。門脈結紮による肝再生系のメカニズム解明に向け、TNFα受容体遺伝子欠失マウスのデータをさらに詳細に集めるとともに、PPI解析によるシグナルネットワーク構築を今後行う。
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