研究実績の概要 |
本研究では、マウス成体肝臓において肝前駆細胞増殖を顕著に誘導できる実験系の開拓とそのメカニズムの解明を行うことを目的とする。成体肝臓で特定の肝葉に行く門脈を結紮すると、その肝葉は栄養枯渇で萎縮する一方、残りの肝葉では肝再生に加え、顕著な肝前駆細胞増殖がおこるとされる。平成30年度は、前年度に引き続き門脈結紮後の肝再生を免疫組織学的に解析し、部分肝切除を含め他の再生系と比較するとともに、肝細胞の増殖パターンを、モザイクマウスを用いて解析した。TNFα受容体欠失マウスを用い、再生へのTNFαシグナル関与の有無を調べた。得られた結果は次のとおりである。 (1) 門脈結紮実験では、1日後に、門脈結紮を行った肝葉で壊死がおこり、次第に萎縮した。それと平行し、門脈結紮を行わない肝葉で再生がおこった。肝細胞の分裂像は3日後に分裂が顕著であった。門脈周囲に胆管が増生したが、DDC処理とは異なり肝実質部に侵入する肝前駆細胞の増殖は認められなかった。 (2)部分肝切除系及び、アセトアミノフェンまたは3,5-ジエトキシカルボニル-1,4-ジヒドロコリジン [DDC]による肝障害系で、オルニチントランスカルバミラーゼ酵素の発現がモザイク状になるspfashへテロ型マウスを用いて肝細胞の増殖パターンを数理科学的に解析した。これらの再生系では、前駆細胞増殖が起こるとされる系もふくめ、肝細胞の増殖パターンはフラクタルの性質を示し、肝細胞の娘細胞の配置に定方向性はなくランダムにおこると結論した。 (3) TNFα受容体遺伝子欠失マウスにおいて門脈結紮手術を施したところ、肝細胞壊死は門脈を結紮した肝葉で野生型同様認められた。門脈結紮を行わない肝葉での肝細胞増殖もおこったので、この再生系にはTNFαシグナルは働かない可能性がある。さらに今後の検討が必要である。
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