研究実績の概要 |
本研究は,植物が1細胞の受精卵から多細胞化していく発生過程で,最外層の細胞群がどのように表皮最外層という位置情報を認識し,表皮細胞としての同一性を確立するのかという課題の解明を目的とする。 シロイヌナズナの表皮細胞分化のマスター転写因子ATML1, PDF2のゼニゴケにおける相同遺伝子MpPDF2について,ゲノム編集による変異株の作出を試みてきたが,変異株が得られず,致死が予想された。タンパク質の機能領域のさらにC末端側とmRNAの3’非翻訳領域を標的とした編集のための形質転換株の作出を追加し,選抜した結果,成長に著しい遅延の見られる形質転換株が得られた。 一方,東京大学(阿部光知准教授)との共同研究において,シロイヌナズナの解析から,最外層という位置情報の伝達経路はマスター転写因子ATML1の転写時の制御というよりも翻訳後のタンパク質活性化/不活性化制御に作用点を持つということ,その制御にはスフィンゴ脂質との相互作用が必要であるということが強く示唆される結果を得た。すなわち,最外層という位置情報が最外層に特異的なスフィンゴ脂質によってマスター転写因子に伝えられた後,マスター転写因子が活性化することで内側の細胞ではなく最外層の細胞群のみが表皮細胞分化を起こすというしくみが明らかになった。
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