本研究は、チョウの蛹の翅組織の発生過程に対してリアルタイム・インビボの状態で共焦点蛍光イメージングを行うことで、チョウの翅の色模様形成のメカニズムを解明することを目的としてきた。最終年度は、ヤマトシジミを用いて、翅の発生段階での動的変化について詳細に記録することができた。これまでの研究で、さまざまな蛍光色素が有用であることがわかっていたが、今回、主にHoechstによる核染色、MitoRedによるミトコンドリア染色、BODIPY-Ceramideによるゴルジ及び膜構造体の染色が安定的に数日間保持可能であることを突き止めたことは特筆に値する。具体的には、蛹化直後に翅組織を染色し、その後4日程度までの蛍光観察が可能となった。実際、その期間に翅組織の大きな形態形成が起こり、色模様の位置が決定されることがわかっている。その一方で、Fluo-8によるカルシウムイメージングと蛍光抗体導入法の検討については十分な時間を割くことができず、満足な結果が得られなかった。今後の研究課題となるであろう。他方、ヤマトシジミの代替種としてアオタテハモドキを使用した実験では、翅組織をさまざまな材質表面に接触させた場合、材質表面の物理化学的性質によって色模様形成シグナルの伝播距離が決まることがわかった。接触面ではモルフォゲン分子の分泌および拡散は不可能であることから、これらの研究成果は、チョウの色模様形成過程が、これまでに信じられてきたような濃度勾配モデルでは説明できないことを意味している。濃度勾配モデルの代替として提案されている誘導モデルおよびそれに付随する歪み仮説によって実験結果が説明されうることが示された。詳細については今後の研究に委ねられることになる。
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