研究課題
円石藻は、ハプト藻植物門に属す微細藻類で、細胞表面に精巧な形態の石灰化された鱗片(円石)をもつ。本研究では、その石灰化の分子機構の解明を目的としている。初年度である今年度は以下の結果を得た。1. RNAi による円石形成関連遺伝子のスクリーニング系を確立し、cDNA マクロアレイ解析・転写産物データベースを活用して得られた候補遺伝子のスクリーニングを開始した。具体的には、先ず、円石形成細胞特異的発現遺伝子の一つであるカーボニックアンヒドラーゼ(CA)遺伝子ConC1のds RNAをプロトプラストに導入したところ、コントロールと比較して、mRNA量の減少が確認されるとともに、偏光顕微鏡観察、フローサイトメトリーにより円石量の減少が認められた。このことから、CAの中でも円石形成細胞特異的に発現するConC1遺伝子産物が円石形成に関与することが示唆され、スクリーニング系の確立にも成功した。この系を用いて他の候補遺伝子ConC3, ConC7, ConC16についても調べたところ、ConC7, ConC16が円石形成に関与する可能性が示唆された。今後は、さらに他の候補遺伝子についてもスクリーニングを進めて行く予定である。2. ベースプレート上でのin vitro石灰化系の確立に成功し、酸性多糖(Ph-PS-1, -2, -3)のうちPh-PS-2が石灰化開始に重要な役割を果たしていることを実証した。具体的には、Ph-PS-2のみを残す処理(低pH脱灰後ウレア処理)をしたベースプレートや、Ph-PS-2のみを添加したベースプレート上でも、石灰化が起こることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
RNAi による円石形成関連遺伝子のスクリーニング系の確立に成功し、スクリーニングを開始することができた。また、次年度以降必要となるin vitroでの機能解析に向け、ベースプレート上でのin vitro石灰化系を確立し、酸性多糖Ph-PS-2の役割を実証することができた。
今年度の成果を基に、さらにRNAi による円石形成関連遺伝子のスクリーニングを進める。得られた円石形成遺伝子について、形質転換系や in vitro 石灰化系を駆使して、遺伝子産物の局在性やカスケードにおける機能を解析し、Pleurochrysisにおける円石形成カスケードの全容解明を試みる。① Pleurochrysisの形質転換系を用いたin vivoでの機能解析:得られた遺伝子について、形質転換系を利用し、変異株への相補性試験、レポーター遺伝子を用いた局在性の検討、過剰発現株を用いたin vivoでの機能の推定を行なう。機能の推定には、円石のCa量、酸性多糖量の測定、走査型電顕による円石の形態の観察、超薄切片の透過型電顕観察による細胞内円石形成過程(ココリス小胞)の観察、シャドウイング・透過型電顕によるベースプレートの形態観察を行う。カーボニックアンヒドラーゼやCa2+, HCO3-などのイオン輸送体遺伝子の場合には、これまでの経験を活かし活性を測定する。② 大腸菌発現系等を用いた機能推定:イオン輸送体に関しては、大腸菌、酵母、Xenopus oocyte、もしくはリポソームの系で、RIもしくは電極を用いて測定する。酸性多糖やベースプレート、ココリス小胞の合成・構築に関わる可能性のあるものについては、酵素活性・in vitro石灰化に及ぼす影響を解析する。③ プロモーター解析:円石化で発現上昇する複数の遺伝子について、鍵となる共通の転写因子を想定し、5’上流域を検索する。遺伝子導入系を用いて、プロモーターレポーターアッセイ等を行い、遺伝子発現ネットワークの理解を進める。
Pleurochrysis transcript sequence database
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