研究課題/領域番号 |
16K07443
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研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
松尾 亮太 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (40334338)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ベータアレスチン / 受動回避学習 / 網膜視細胞 / オプシン |
研究実績の概要 |
今年度は、ナメクジの網膜において機能する分子のひとつであるβアレスチンに着目し、さまざまな光環境下におけるβアレスチンの挙動について解析した。また、ナメクジが周囲環境の明暗を手掛かりとした受動回避学習を形成可能であるかについても調べた。 通常、発達した眼を持つ昆虫や脊椎動物には、オプシンシグナルを素早く遮断するために働く細胞内タンパク質である視覚アレスチンが存在し、このタンパクが視細胞内を光依存的に移動することが、明順応、暗順応の分子基盤のひとつを成している。しかしながら、それほど発達した眼を持たない動物では、GPCR一般に対して機能するアレスチンであるβアレスチンしか持たない。それでは果たして、発達した眼を持たない動物では、βアレスチンも視覚アレスチンと同様に、光依存的な視細胞内の移動を示すのであろうか?本年度ではこの点を調べ、その結果、ナメクジにとって良く見えているはずの短波長の光を照射すると、βアレスチンもラブドメア層へと移動することを明らかにした。従って、視覚アレスチンを持たない多くの動物では、βアレスチンが明暗順応に関与している可能性が示唆された。 また、げっ歯類等のモデル動物では、負の光走性の性質を利用して、暗所に対する恐怖条件付けを行う「受動回避学習」実験系が存在するが、同じく暗所を好むナメクジにおいても、同様な受動回避学習を形成可能であるかは不明であった。そこで、げっ歯類で用いられているシステムを参考にして同様の装置を作成し、キニジン硫酸溶液を無条件刺激(忌避刺激)として条件付けを行った。その結果、ナメクジが暗所に到達するまでの時間が、キニジン硫酸との連合によって有意に増加することが明らかになった。さらに、この学習はコンテクスト(足場として用いているプレートの素材)に依存するものであることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
βアレスチン、および光依存的受動回避学習の結果については、当初予定していなかった思いがけない成果であるが、予定していたOpn5に対する抗体がうまくできておらず、この点では難航している。一方、OpnB (xenopsin)とrOpn (rhodopsin)については、特異的抗体の作成と吸収スペクトル特性の決定が完了した。今後、これらのデータを足掛かりにして、非眼性光感知機構にさらに迫りたい。
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今後の研究の推進方策 |
新規のオプシンのうちの少なくとも一種について、その分子特性の一つとして光吸収スペクトルを決定したいと思い、これについては3月下旬にデータ取得に成功している。今後は、そのスペクトル特性が、ナメクジの眼の電気生理学的特性や行動学的特性とどのような関係があるかを決定したいと考えている。特に、明順応、暗順応時の網膜電位と各オプシンとの関係は、詳細な解析に値するものと考えている。また、各オプシンの役割については、遺伝子編集等の遺伝学的手法の助けを借りないと正確には分からないため、ナメクジにおける遺伝子編集技術の確立にも着手した。これにより、OpnB (xenopsin)およびOpn5の眼および眼以外の光感知組織における役割を明らかにして行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
安い物品を探すなど、節約に節約を重ねたため、次年度使用額(B-A)が正の値になりました。H30年度は最終年度であり、複数報の論文投稿を予定しています。このため、この予算は掲載費あるいはカラー図版代等に振り向けられる予定です。
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