研究課題/領域番号 |
16K07444
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
松本 顕 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (40229539)
|
研究分担者 |
伊藤 太一 九州大学, 理学研究院, 助教 (20769765)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ショウジョウバエ / 加齢 / 歩行活動 / 睡眠相断片化 / RNAseq / 行動解析 / 短周期リズム |
研究実績の概要 |
研究初年度にあたるH28年度は、まず当研究室での飼育条件におけるショウジョウバエ成虫の老化プロファイルを確立をめざした。後の遺伝子解析への影響を考慮し、transgenic lineのbackground系統として広く用いられているw(BL#5905)を採用した。同一飼育個体群から3日以内に羽化した交尾済成虫を1つの集団として扱い、雌雄別に1ビン当たり25匹ずつに取り分けて1週間ごとに新しい飼育ビンに移しながら、死亡数をカウントした。雌雄合計約5,400匹(羽化日時から3集団に分けられる)に関して生存曲線を求めると、雌は10週齢から14週齢にかけて急激な死亡数が累積する典型的なS字曲線となり、半数致死は12週、最長寿命は17週であった。一方、雄は齢に伴い個体数が単調に減少し、12週目にほぼ死に絶えた。 このデータを元に、明暗条件下で1週齢と10週齢の雄に関して、1秒毎の歩行活動を3日間にわたって個別にそれぞれ60個体ずつ計測し、睡眠相の断片化を調べた。様々な統計手法や解析に供するデータを比較した所、最大エントロピー法による短周期リズムの検出には、真昼の6hrと真夜中の6hrの比較が適していることがわかった。この時刻では、週齢や日内位相に関係なく、ショウジョウバエ成虫の歩行活動には7、9~10、15分の3種類の超短周期リズムが見いだされた。さらに10週齢の成虫では44~47分周期で睡眠断片化が誘発されている事を示唆する結果が得られた。ただし、全ての老齢個体に普遍的ではないため、現在さらに詳細を解析中である。 以上を踏まえて、明暗条件下で4時間ごとに24時間にわたり、1週齢と10週齢の雄成虫の脳からRNAを精製しRNAseqを行った。現在、加齢に伴い発現が低下し、睡眠相の断片化に影響する可能性のある遺伝子群の同定をめざしてバイオインフォ解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
老化・寿命のプロセスおよび睡眠相断片化などの老化に伴う行動変化は、エサや飼育温度などの環境条件、性差、系統差などの影響を強く受けることが知られている。このため、過去の文献でデータを調べるだけでなく、自らの研究室の飼育環境において、実際に研究に供する系統の生存曲線や活動の計測を行っておくことは、研究を進める上で避けて通れない重要課題である。H28年度は本研究の初年度であったため、これらのいわば基礎データ固めに注力した。その結果、以降の研究で使用予定のw(BL#5905)系統の基本的な老化プロファイルを明らかにすることが出来た。特に、本系統の生存曲線は雌雄で大きな違いがあることが判明したことは、後の実験計画を考える上で非常に重要であった。また、睡眠相断片化の統計的な検出手法に関しては、いまだ完全にスタンダードな統計手法の確立には到っていないものの、本年度中にポジティブな解析結果を得られたため、解析の方向性は定まったと言える。最後に、本研究の核となる若齢個体と老齢個体の遺伝子発現の網羅的な比較に関しても、すでにRNAseqのデータを得ており、次年度にむけてバイオインフォ解析を行う体制が整えられている。以上のように、本研究の初年度の進捗状況は、おおむね順調に進展したと自己評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目に当たるH29年度にまず取り組むべき目標は、初年度に得た、若齢個体と老齢個体のRNAseqデータのバイオインフォ解析である。この解析から、加齢による影響を被る遺伝子群を網羅的に同定し、さらに、DAVID解析などにより、これらの中から睡眠相の断片化に関係する遺伝子群、あるいは、機能グループを抽出する予定である。今回のRNAseqのサンプルは、成虫の脳を4時間ごとに解剖して得られたものであり、これまで行われてきた頭部全体での遺伝子発現比較よりも、組織レベルでも時間分解能の面でも、はるかに精度の高い解析が期待できる。睡眠相断片化に関連する遺伝子候補を得た後は、Gal4-UAS法によって該当遺伝子の発現を脳内で過剰発現、もしくは遺伝子ノックダウンし、加齢に伴う行動変化(主として睡眠相の断片化)にどのような影響を与えるかを行動レベルで調べる予定である。また、これと並行して、顕著な短周期リズム(睡眠相断片化に類似した活動パターン)をもともと示す概日リズム無周期系統での該当遺伝子の過剰発現や遺伝子ノックダウンの影響も調べる。 これらを通して、睡眠相断片化に真に影響すると証明できた遺伝子から順にin situ hybridizationなどの手法を用いて、該当遺伝子の発現組織の同定を試みる。その後、その発現組織で神経の機能異常を誘発することで、それらが実際に睡眠相断片化の責任組織であるかを判定する。これらを通して、睡眠相断片化を抑制する薬剤スクリーニングに繋げるのが本研究の最終的な目標であるが、当面は責任遺伝子の同定に注力する必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
千円以下の端数については概算で計上しており、実際の使用額とは275円の差額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
H29年度の実験用消耗品として使用予定。
|