前年度の研究により、恐怖情動を誘発する匂い物質の受容体候補である、3種類の嗅覚受容体遺伝子に変異を持つマウスを作製した。本年度はこれらマウスを掛け合わせ、受容体遺伝子にホモで変異を持つ3種類のノックアウトマウスを作製した。次にこれらノックアウトマウスを用いて恐怖行動の解析を行った。この結果、2種類の嗅覚受容体のノックアウトマウスにおいて、恐怖誘発物質に暴露時の恐怖行動が対照群のマウスよりも低下する傾向が観察された。 さらに、この恐怖誘発物質の受容情報の伝達機構を詳細に解析するために、上記に示した3種類以外の受容体候補、およびその受容体と相同性を持つ遺伝子との2重ノックアウトマウスを作製した。また、これら受容体が発現する神経細胞を特異的に、薬理的にシステマティックに破壊したマウスの作製も行った。これらマウスを用いて恐怖誘発時の行動・生理応答を解析した結果、恐怖誘発物質暴露時の恐怖応答が著しく低下することがわかった。そこで、これら受容体が発現する神経細胞を、特定の脳領域に薬剤を注入することで、領域特異的に破壊する実験を行った。この結果、領域特異的な神経破壊を行ったマウスでは対照群のマウスと比較し、恐怖誘発物質暴露時の恐怖行動や恐怖時に誘発される生理応答に有意な低下が見られた。以上のことから、本研究で用いた恐怖情動を誘発する匂い物質の受容体、および恐怖応答の発現に重要な神経細胞群が存在する脳領域の候補について新たな知見を得ることができた。
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