研究課題/領域番号 |
16K07446
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
横張 文男 福岡大学, 理学部, 教授 (20117287)
|
研究分担者 |
渡邉 英博 福岡大学, 理学部, 助教 (90535139)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | クロオオアリ / 真社会性昆虫 / 体表炭化水素 / 神経生物学 / 錐状感覚子 / 電気生理実験 |
研究実績の概要 |
真社会性昆虫であるクロオオアリの巣仲間認識機構の解明を目指したものである。クロオオアリは、体表炭化水素の組成比の違いにより巣仲間か非巣仲間かを識別していることが行動実験によって知られていた。この体表炭化水素は18種からなり、触角の錐状感覚子によってこれらの化合物を受容している。尾崎ら(Ozaki et al. 2005)は、この感覚子の受容ニューロンは非巣仲間の体表炭化水素抽出物には強く反応するが、巣仲間の体表炭化水素抽出物にはほとんど反応しないと報告している。一方、Sharma et al.(2015)は、この感覚子のニューロンは、巣仲間および非巣仲間の体表炭化水素抽出物にも、応答パターンが異なるものの強い応答があると報告している。しかしながら、どちらも研究でも体表炭化水素の抽出物に対するマス応答に基づく解析結果であり、個々の体表炭化水素単体に対して各受容ニューロンの応答に基づくものではなかった。先行研究のこの矛盾した結果を解消するためには、我々は体表炭化水素18種それぞれに対する応答を明らかにすることが重要と考えた。最初に、体表炭化水素が比較的分子量が大きく揮発しにくいことを考慮して、体表炭化水素を温めて刺激気体を得るための加温式刺激装置を開発した。この装置は、流動パラフィンで体表炭化水素を希釈したものを50℃程度に加熱し、その刺激気体の温度を一定に保ちながら感覚子を刺激できるようになっている。この装置を用いて個々の体表炭化水素に対する錐状感覚子の受容ニューロン応答を記録し、ニューロン毎にその応答特性を明らかにすることを試みた。その結果、個々の体表炭化水素が10~20個のの受容ニューロンの興奮を引き起し、体表炭化水素の種類によって応答するニューロンの組み合わせが異なることを明らかにするができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
加熱式刺激装置の開発に成功し、それを用いて個々の体表炭化水素に対する錐状感覚子の受容ニューロンからの応答を記録し、各受容ニューロン別に応答を区別して解析するための準備はほぼ完了した。ガスクロマトグラフ(GC)と組み合わせた体表炭化水素の濃度測定・刺激装置については、旧式の(GC)を他学科の研究室から借り受け、これを利用して体表炭化水素抽出物をGCで分離し、オンラインで各分離された成分に対する触角電図(EAG)を測定するための装置であるガスクロマトグラフ-・EAG測定装置(GC-EAD)の開発に成功した。しかしながら、同じ仕組みの装置を使った他の研究者による研究と同様にEAG応答が小さく、濃度と応答との関係を明瞭にするには至らなかった。更に装置の改良が必要になっている。触角葉局所介在ニューロンに対する免疫抗体染色実験については、研究対象としている糸球体群(T6グループ)をさまざまな神経伝達物質の抗体染色実験を試みたが、候補となる神経伝達物質の同定には至らなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
クロオオアリの錐状感覚子の受容ニューロンの個々の体表炭化水素に対する応答を記録し、個々の受容ニューロンを区別して解析する方法が2016年度に実施した研究によって確立した。今年度は、この方法を用いて多数の錐状感覚子から体表炭化水素に対する応答を記録し、各受容ニューロンの応答特性を調べ、その応答スペクトラを調べる。ガスクロマトグラフ-・EAG測定装置(GC-EAD)の開発には基本的には成功しているが、まだ個々の体表炭化水素に対するEAG応答が小さく、S/N比も不十分であるので、GCのカラムの選定について再検討し、あわせてEAGを測定する装置を改良したい。研究対象としている糸球体群(T6グループ)をさまざまな神経伝達物質の抗体染色実験を引き続いて試み、候補となる神経伝達物質の同定し、巣仲間認識にかかわると推測されるT6糸球体群から情報を受け、その情報を高次中枢の特定の処理領域に送る投射ニューロン群についての解析をすすめる計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
装置開発に必要だった消耗品が予定額よりも安価に入手できたために、残金が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
2017年度の研究資金として薬品などの購入に利用する計画である。
|