本研究は2018年度までの予定であったが、論文執筆の都合のために2019年度まで延長していただいていた。しかしながら、本研究で使用した新規に合成したクロオオアリ体表炭化水素に関わる執筆を共同研究者から遅らせてほしいとの要請があり、執筆を控えていた。更に2019年度になっても共同研究者による体表炭化水素の合成に関する論文執筆が進まず、2019年度中に論文を出版することができなかった。 クロオオアリの巣仲間識別は、触角にある錐状感覚子によって受容される同種他個体の体表炭化水素の匂い情報に基づいている。18種の個々の炭化水素化合物に対する受容ニューロンからのインパルス応答を記録し、273個の感覚ニューロン毎の各匂い刺激に対する応答強度の相関値をもとに分類を行った結果、受容ニューロンは7つのグループに分けられた。この研究過程で、同期発火するようにみる感覚ニューロンがあることに気が付いた。しかしながら我々の生理学的実験では同時に記録されるニューロン数が多く、それぞれのニューロンを区別して応答パターンを調べるために、誘導される電気信号をフィルター等を介して整形した。単純なDC電位誘導ではないので、波形からだけでは単純に電気的カップリングがあるとは判断できなかった。これを解決するためにギャップ結合を形成するチャネルタンパク質の阻害剤であるProbenecidとCarbenoxoloneを感覚子に適用して同期発火が消滅するかどうかを検討した。Probenecidでは阻害剤投与の明瞭な効果は見られなかったが、Carbenoxoloneでは神経間の同期発火の頻度が減少することが示唆された。まだ確定的なデータは得られていない。。 本科研費の研究課題である「クロオオアリの巣仲間認識機構の神経生物学的研究」に関する論文は2020年度中に出版を予定している。
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