研究課題/領域番号 |
16K07447
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
青木 摂之 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (30283469)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生物時計 / ヒメツリガネゴケ / 二成分制御系 / ヒスチジンキナーゼ |
研究実績の概要 |
モデル基部植物のヒメツリガネゴケを用いて、次の研究を行った。 1、PASヒスチジンキナーゼ遺伝子PHK1とPHK2の機能解析 昨年度、ヒメツリガネゴケのPASヒスチジンキナーゼ遺伝子PHK1とPHK(HK3aとHK3bと呼んでいたが改名した)について、それぞれの一重破壊株と両者の二重破壊株では、i)茎葉体の形成数が増えること、ii)AP2タイプの発生制御因子APB遺伝子群の転写活性が上昇することを明らかにした。今年度は、さらにi)の原因として、破壊株でカウロネマ細胞の分枝が増加することを発見した。また、CCA1ホモログほかいくつかの生物時計関連遺伝子の転写活性を比較したところ、野生型株に比べて破壊株ではCCA1ホモログ(CCA1a)の転写が顕著に上昇する結果を予備的に得た。このことから、PHK1とPHK2は生物時計の制御に関わる可能性が示された。 2、酸素センシングにおけるPHK1とPHK2の機能の検証 PHK1とPHK2のPASドメインは、系統解析でバクテリアの酸素センサーFixLの近傍に位置づけられることを見出した。PHK1とPHK2が酸素センシングに関わる可能性を検証するため、沈水条件と微好気条件において、野生型株と破壊株との間で茎葉体形成数を比較した。その結果、これらの条件では、好気条件とは逆に破壊体の茎葉体形成数が減ることを見出した。このことから、PHK1とPHK2は酸素センシングに関与する可能性が考えられた。 3、PHK1とPHK2と相互作用する二成分制御仲介因子(HPt)の同定 まずゲノムデータベースの検索により、ヒメツリガネゴケが3つのHPtを持つことを明らかにし、HPt1、HPt2、HPt3と命名した。酵母2ハイブリッドシステムを用い、これらのうちHPt2がPHK1、PHK2双方と相互作用することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、基部植物の一種ヒメツリガネゴケの生物時計について、1)生物時計の中核回路の解明;2)概日リン酸リレー系の同定と機能解析;3)発振機構の推定;の3つを行うことである。「研究実績の概要」1に記した破壊株でのCCA1bの転写活性の上昇は、すなわちPHK1とPHK2が時計の中核回路を制御している可能性を示唆している。シロイヌナズナではPRR7やPRR9がCCA1(とLHY)の転写を抑制することが知られる。従って、「概要」1の結果は、PHK1とPHK2がコケのPRRホモログへのリン酸リレーを介してCCA1ホモログを制御する可能性を示唆しており重要である。一方で「概要」3に記した内容、つまり酵母2ハイブリッド法により、PHK1とPHK2の相互作用パートナーとしてHPt2を同定したことは、上記の目的1)と2)の観点で大きな進展である。昨年度は、3)の観点での進展に乏しかったが、PHK1とPHK2が、仲介因子を介してPRRホモログへのリン酸リレーを行なうかどうかを検証する準備が整ったと言える。従って、現在までの進捗状況として(2)を選択した。さらに、当初予想しなかった結果(「概要」の2)により、PHK1とPHK2が酸素センシングに関わる可能性が示唆された。この結果は、PHK1とPHK2が周囲の酸素濃度に依存し、茎葉体形成を促進もするし抑制もする非常に柔軟な制御因子であることを示している。生物時計との機能的な関連が今のところ未知数ではあるが、非常に興味深い成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、PHK1とPHK2が実際にリン酸リレーによりヒメツリガネゴケのPRRホモログをリン酸化し、さらにそれにより他の時計遺伝子が制御されるかどうかを検証する必要がある。まず、PHK1とPHK2と相互作用することが示されたHPt2について、植物細胞内でも同様の結果が得られるか、Biomolecular fluorescence complementation(BiFC)法により検証する。さらに、酵母2ハイブリッド法とBiFC法により、ヒメツリガネゴケのPRRホモログのうちリン酸化モチフ(DDK)を保持するPRR2~PRR4がHPt2と相互作用するかどうかを検証する。PRR以外のレスポンスレギュレーターについても基部植物に固有に見られるものを優先的に解析を進めたい。PHK1とPHK2が生物時計に入力する制御因子である可能性を検証するためには、それらの変異株において時計の位相や周期を野生型株と比較することが重要である。これには昨年度開発した一過的な概日遺伝子発現アッセイの改良法を活用する予定である。また、「概要」の2で得られた酸素センシングとの関係であるが、これについてもさらに詳細な解析を進めたい。現在、高度な嫌気条件でも、PHK1とPHK2の破壊株の原糸体が生育可能であるという意外な結果を予備的に得ている(野生型株は生育できない)。これは上記の微好気/沈水条件での結果と同様に、研究計画当初には予想されなかった結果だが、生物学的な重要性は高いと考えられるので、破壊株のトランスクリプトームや中心代謝系の中間体濃度を調べるなど、どのような要因で生育が可能であるのかを調べ、また生物時計との関連も検証する予定である。
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