ポリコームサイレンシングと呼ばれる転写抑制機構は再生医学分野と癌研究分野において注目度が高い。しかしながら、その制御メカニズムはほとんどわかっていない。その制御に関わる遺伝子を同定しようとする場合、通常ポリコーム群タンパク質をノックダウンすると、特に幹細胞では分化誘導と同時に細胞周期が停止してしまうので、これまでのようなコロニー形成でスクリーニングする方法では目的の遺伝子が採れない、という問題があった。 今回、FACSによる細胞分離と次世代シークエンサーを組み合わせて定量的shRNAスクリーニングを行うことにより、コロニー形成を回避し、一方で特定した各遺伝子をランキング化できるようになったため、ポリコームサイレンシングを制御する多数の新規遺伝子が特定できた。その方法については論文として発表した。 当初、このうち本研究課題ではSetd5タンパク質に着目したが、他研究室から類似内容が発表されてしまった。しかし、佐賀大学で初めてとなる条件付きノックアウトマウスを樹立しており、今後臓器別の解析は可能な状態である。 一方、別の同定遺伝子であるMbf1について注目し、これについては、そのショウジョウバエホモローグの解析過程でポリコームサイレンシングの新規制御メカニズムを発見できた。Mbf1は細胞質に主に存在して、ストレス時に核移行するコアクチベーターと考えられていた。我々の解析の結果、細胞質にあるショウジョウバエMbf1はポリコーム複合体の構成因子であるE(z)をコードするmRNAに結合してRNAエクソヌクレアーぜであるPacmanからの攻撃を防ぎ、意外にもポリコームサイレンシングの安定性に寄与していることがわかった。その他、次世代シークエンサー解析の結果、細胞質Mbf1はストレス応答関連遺伝子mRNAにも結合しており、これまで変異型の表現型が説明できなかった部分もできるようになった。
|