研究課題/領域番号 |
16K07462
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
古丸 明 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10293804)
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研究分担者 |
遊佐 陽一 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (60355641)
河村 功一 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (80372035)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 雄性発生 / 雄性異体 / 自家受精 / 卵寄生 |
研究実績の概要 |
雄性発生を行う本種における他家受精は、次世代に雄親由来の核ゲノムしか受け継がれないため、卵寄生“egg parasitism”と呼ばれる。本研究では本種における卵寄生の実態を明らかにするために、マイクロサテライト(MS)解析に基づく親子関係の推定を行い、タイワンシジミの集団内の遺伝構造について考察した。 1)各殻色や性別間において伊勢落集団内では遺伝的に大きな分化はないものと思われる。また雄型は系統樹上で、狭い領域に分布する傾向があることから、多くの世代を経過していない可能性が考えられる。また雄型の倍数体が2010年と異なっていることや雄型二倍体が雄型三倍体と同じ枝状に存在していたことから、二倍体から三倍体へ倍数性が上昇したことが考えられる。しかし、解析に用いた雄型二倍体の個体数が少ないため倍数性の異なる系統が新たに侵入した可能性も想定される。 2)系統樹における分布から倍数性が異なる個体群間では遺伝的交流がない、あるいは系統としてある程度独立している可能性が示唆された。3)親子のMS遺伝子型が完全に一致していた場合を自家受精と判断し、推定した保育成貝の自家受精率は25%~88%であった。自家受精率が100%である個体はみられず、完全に自家受精のみを行っている成貝は存在しないことが明らかになった。4)親と異なる遺伝子を持っていた稚貝46個体から14通りの遺伝子型が確認された。そのうち2個体の稚貝A18,D01では雄型であるM18と遺伝子型が完全に一致した。また、雌雄同体であるY12と遺伝子型と2個体の稚貝D6,D10でも一致した。このことから雄型や他個体の雌雄同体は卵寄生(Houki et al., 2011)により繁殖していることが強く支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
最終年度で、親子の遺伝子型の比較を行うことができた。これにより、本種の自家受精率が個体によって異なることが明らかになった。また鰓の中でも他家受精が起きていることが証明された。さらに雌雄同体個体の鰓の中で保育されていた稚貝から、同体の周辺に生息したいた雄と同じ遺伝子型が検出された。これは、雄性発生種において 雄による雌雄同体の卵の乗っ取りを直接的に証明した事例で特筆すべき成果である。集団内の遺伝的多様性をマイクロサテライトで評価した結果、集団内の多様性は低いものの、貝殻が黄色い個体、緑色の個体は系統樹上で異なる分布をしており、貝殻の色も遺伝的背景とリンクしていると思われる。また、9年前の遺伝子標本が残されていたので、昨年採集した個体と、遺伝子型、倍数性等を比較することができた。この解析により、雄性発生台湾シジミにおいては、集団内の系統の置きかわりが早く、系統の絶滅、新規系統の移入が頻繁に起きているものと判断される。また、倍数性の変化も認められ、同じ系統において倍数性が変化している可能性、倍数性の異なる系統が新規に加入している可能性が想定された。以上当初の計画よりも新たな知見を得ることができ、本種の特性について重要な知見を得ることができたと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
この3年間の解析では、核遺伝子のマーカーとして マイクロサテライト5座を確立することができ、それを元に集団内の遺伝解析、親子判別による卵乗っ取り仮説を 実証することができた。ただし、稚貝からは十分なMS解析の可能な量のDNAを得ることが困難で、保育中の稚貝を2ヶ月間飼育して、大きくする必要があった。この飼育は労力が必要であり、研究効率は必ずしも良いものではなく、3座では異なるということを証明するのに十分であるが、さらに精度を高めるために、マイクロサテライトの吟味、分析可能な座数を増やす等が必要になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該課題で得られた成果を出版するためには、新年度追試を行うことで再現性を高めることができると判断した。また、論文にまとめる際には、英文校閲等の謝金や出版に要する費用が必要であり、新年度に予算を執行することが研究推進上有益であると判断した。
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