研究課題/領域番号 |
16K07465
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小早川 義尚 九州大学, 基幹教育院, 教授 (20153588)
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研究分担者 |
舘田 英典 九州大学, 理学研究院, 教授 (70216985)
楠見 淳子 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (20510522)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヒドラ / 緑藻 / クロロコッカム / 共生 / 水平伝搬 / トランスクリプトームの比較 / 形質変化 |
研究実績の概要 |
自然状態でクロロコッカムの共生しているヒドラ(J10系統)から、他の緑藻の共生していないヒドラへのクロロコッカムの水平伝搬の確認とその新しい宿主へ及ぼす影響の詳細な解析を続けた。 このクロロコッカムの新しい宿主内での消長には宿主毎に差があり、その反応は3種類に分かれた。第1のグループは、クロロコッカムをポリプが取り込むが、その後の内胚葉上皮細胞への取り込みは極めて少ないか、あってもすぐに消化されてしまう。第2のグループでは、ポリプの取り込んだクロロコッカムは内胚葉上皮細胞内にしばらくは生きた状態でとどまり、外部からの供給が続く限りはその数も増加する。しかし、外部からの供給が絶たれるとやがて消失してしまう。第3のグループはvulgaris groupに属する系統で、外部からの供給が絶たれた後も共生状態が継続する。第3グループに属する105系統のヒドラでは、共生によって形態・行動・増殖等に顕著な変化が観られた。 以上の研究成果は、日本動物学会九州支部第70回大会(大分大学)において「共生緑藻 (Chlorococcum sp.) のヒドラポリプ間での水平伝播:御代川・津田・金谷・楠見・舘田・小早川」として発表した。また、現在これらの追加のデータを加え、その研究成果を論文にまとめBiological Bulletin誌へ投稿した。査読の結果、修正を加えての掲載とされ、現在修正版を投稿したところである。 また、非共生状態のヒドラとクロロコッカムとの共生状態にあるものとの間での遺伝子発現の差異をトランスクリプトームの網羅的比較によって解析した。その結果の一部は、日本遺伝学会第89回大会(岡山大学)において「クロロコッカムとヒドラの水平伝播での共生関係構築における遺伝子発現変動解析:御代川・津田・楠見・舘田・小早川」として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的である「自然状態でクロロコッカムの共生しているヒドラ(J10系統)から、他の緑藻の共生していないヒドラへのクロロコッカムの水平伝搬の確認とその新しい宿主へ及ぼす影響の詳細な解析」については、研究実績の概要にも述べたようにほぼ研究の目的は達成でき、現在その成果を論文として投稿中である。 もう一つの大きな目的である「非共生状態のヒドラとクロロコッカムとの共生状態にあるものとの間での遺伝子発現の差異の網羅的比較による解析」は、今(2017)年度において、NGSによるデータの取得を終了し、現在その解析を進めている状況にある。その比較解析の中からヒドラのパターンフォーメーション、光受容等に関連する遺伝子の発現の変化が検出されている。現在、それらの遺伝子の発現解析を進めるために、クロロコッカムを共生させているヒドラとさせていないヒドラにおいて、q-RT-PCRによる確認を行い、in situ hybridizationを行う準備を進めている。 また、安定した緑藻との共生状態を維持しているviridissima-groupのヒドラにおける「非共生状態のヒドラとクロレラとの共生状態にあるものとの間での遺伝子発現の差異の網羅的比較による解析」についても、NGSによるデータの取得を終了し、現在その解析を進めている状況にある。 また、共生クロロコッカムの培養についても着手し、現在、自然状態でクロロコッカムの共生しているヒドラ(J10系統)から、クロロコッカムを抽出し、in vitroでの増殖を誘導できる培養液の開発を進めている。現在、増殖が起こる条件をほぼ確立できたところである。今後は、単離培養を試み、その後、遺伝子情報による単離できたクロロコッカムとヒドラ内に共生しているものとの同一性を確認し、解析を進めるる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的の1つである「非共生状態のヒドラとクロロコッカムとの共生状態にあるものとの間での遺伝子発現の差異の網羅的比較による解析」については、現在進めている解析結果検出された発現変動の観られた遺伝子の実際の発現様態(発現部位・程度)をin situ hybridization等によって確認し、データがそろったところで成果をまとめて論文として公表する予定である。 また、安定した緑藻との共生状態を維持しているviridissima-groupのヒドラにおける「非共生状態のヒドラとクロレラとの共生状態にあるものとの間での遺伝子発現の差異の網羅的比較による解析」についても、現在得ているデータの解析を進め、その結果をvulgaris-groupのヒドラとクロロコッカムとの共生の場合の解析結果とを比較考察し、ヒドラと緑藻の共生において重要な役割を果たす要因の遺伝子レベルでの解明を試みる。そのとき、すでに得ている共生体の種類の差異による刺胞の動態への影響、共生体の細胞内における状態変化等のデータについての関連に注目して解析を進める。 また、クロロコッカムの単離培養が確立できた後は、その自由生活状態のクロロコッカムとヒドラの細胞内に共生している状態のクロロコッカムの増殖率・形態等の比較解析によって、共生体側から観たこのヒドラと緑藻の共生関係の利点について推察を行う。そのとき、このクロロコッカムが自由生活状態においては2本の鞭毛を生じ自由遊泳状態に入ることを確認しているが、その状態をin vitroにおいても再現できるように試み、より包括的に解析を進めるようにする。 以上の、研究を進めることにより、共生状態にあることの利点を共生体である緑藻と宿主であるヒドラの両側の立場から解明することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際学会への参加が、学内の他業務との関係でできなかったために予定に対して残が生じた。これに関しては、今後の実験の経費・論文掲載等にかかる経費(カラーチャージ等)として使用する予定である。
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