研究課題/領域番号 |
16K07466
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
楠見 淳子 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (20510522)
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研究分担者 |
岩永 史子 鳥取大学, 農学部, 講師 (50548683)
飯塚 勝 福岡女子大学, 国際文理学部, 学術研究員 (20202830)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | 水環境応答 / 湿地性針葉樹木 / トランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
本年度は5つの環境条件(コントロール、乾燥、冠水、1%塩水、5%塩水)で行ったRNA-seqデータを用い、遺伝子発現パターンの比較解析を行った。計15サンプル(5条件×若葉、成葉、根の3つの部位)を用いることにより、水環境応答に関連する遺伝子を組織ごとに検出する。抽出したRNAのクオリティは高く、すべてのサンプルで比較解析に十分な量のread数(サンプルあたり7000万以上)得ることができた。15サンプルから得られたリードをアッセンブルしcontig配列を作成したところ、isoformも含めて>40万配列が得られた。得られたcontig配列の機能的なアノテーションを行うため、blast検索および緑色植物Pfamデータベース検索を行い、機能をもつと思われるタンパク質の遺伝子配列のみを抽出した。抽出されたcontig配列(138489個)をリファレンス配列とし、サンプルごとに各遺伝子のリードカウントを算出した。得られたリードカウントをもとにクラスター分析を行ったところ、根と地上部との類似性は低く組織的な応答の違いを検出することができた。組織をわけた解析では、①1%塩水と5%塩水、②乾燥、コントロール③冠水条件の3つのクラスターに分かれることが示された。さらに、乾燥、冠水、1%塩水、5%塩水の条件とコントロールを比較して有意に発現が変動している遺伝子について解析を進めている。例えば、地上部の5%塩水の条件で有意な発現変動パターンが見られた遺伝子の中には、シロイヌナズナでNaClや浸透圧ストレスで発現が誘導される遺伝子と相同性が高いものが含まれていた(THI1, ESUL3, RKL1など)。また、葉緑体に局在する光合成に関わる遺伝子群の発現が誘導されており、NaClや浸透圧ストレス応答と光合成機能の関連が示唆される結果も得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は栽培実験を行うことができなかったため、止むを得ずデータ解析を中心に行なったが、今後が期待できる結果がえられている。 1)遺伝子発現パターンの解析と水環境適応に寄与する遺伝子の検出―5つの環境条件(コントロール、乾燥、冠水、1%塩水、5%塩水)で10日間栽培し、根、頂芽と新葉、成葉の3つに分けてRNA-seqを行った。現在、得られたデータの解析を行なったところ、環境条件や組織によって発現変動がある遺伝子が検出された。これらの中には、先行研究で塩ストレス応答に関わることが示唆されている遺伝子が有意な遺伝子として含まれていた。今後は、他の針葉樹の先行研究で得られた結果とも比較しつつ、ヌマスギに特有の水ストレス応答に関わる遺伝子の検出を試みる。 2)分子進化学的手法(PAMLプログラム)を用いた解析については、昨年度は使用した遺伝子の配列が短く、解析に利用できる近縁種でのオーソログ遺伝子の配列数も少ないため有効な結果が得られなかった。そこで、用いる近縁種の種数を増やし、網羅的なオーソログ検出プログラムを用いて、オーソロググループの再抽出を行なった。その結果、すべての種でオーソログ配列が検出されたオーソロググループが3124個, その中でもシングル遺伝子から構成されるオーソロググループは741個が作成できた。今後これらを用いて解析を進める。
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今後の研究の推進方策 |
1)栽培実験―同じ環境条件に晒した場合でも、個体によって植物に現れるダメージの強さに違いがあるため、複数個体の発現データを取得すつ必要がある。実験に用いる苗の生育は順調なので、各条件で複数個体のデータを得ることは可能である。葉が十分に抽出する時期をみて栽培実験を行う。 2)遺伝子発現解析―複数個体の発現解析については、マイクロアレイもしくはRNA-seqのうち、コストパフォーマンスがよい方法を選んで行う。これまでの解析によって得られた情報を基に、適応に関わる遺伝子の発現量をリアルタイムPCRを用いて解析し、再現性を確認する。可能であれば、発現の経時変化についてもあわせて解析を進める。 3)データ解析-分子進化学的解析については、新たに加わった分担者と協力して解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度後期から2018年度前期にかけて移転に伴う研究施設と居室の引越しが行われたためさらに実験の遅延が生じた。特に、ヌマスギは落葉性の木本植物であるため、栽培実験の実施時期に制限があり、当初予定していた実験を事業期間内に終えることができなかった。次年度には、残りの予算を使用してサンプル数を増やして発現解析を行い、再現性を確認する。また、発現変動が顕著な遺伝子については、可能であれば経時的な遺伝子発現変動の解析をリアルタイムPCRを用いて行う予定である。ヌマスギの苗の栽培は順調であり、計画した実験を遂行するために必要な材料はすでに整っている。
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