研究課題
ヌマスギの遺伝子発現変動の時間的変化をモニターするため、5つの環境条件下(コントロール、乾燥、冠水、5%塩水、10%塩水)における、3日後、1週間後、2週間後の各時点で葉サンプルを同一個体から回収した。各条件、時間点ごとに5個体からサンプリング、RNA抽出を行い(計75サンプル)、次に各条件2個体のRNAサンプルを用いてRNA-seq解析を行なった。RNA-seq解析では、corsetプログラムを使用し、配列間の相同性、および発現パターンの類似性を利用して相同な配列をまとめ、マッピングに必要なリファレンス配列を生成した。これにより、従来の方法では、13万以上あったコンティグ配列を8万程度に減らすことができた。新しく得られた時点ごとのデータを解析したところ、ヌマスギにおいても、被子植物でNaClや浸透圧ストレスで発現が誘導される遺伝子群に即座の遺伝子発現の上昇が見られた。これは、ヌマスギが短期的に塩分濃度の上昇に対抗できるシステムを有することを示唆する。一方、高塩濃度(10%塩水)条件下では、10日ほど経過すると葉が枯れる個体が現れ、2週間以上経過すると完全に枯死する個体がみられた。これは、強度の耐塩性については個体差が大きい可能性を示しており、今後は、qPCRを用いて個体間の詳細な遺伝子発現の差を検証する。次に、先行研究で得られたマツ科2種(Pinus teada, Picea abies)ヒノキ科(Cryptomeria japonica)、および本研究で得られたヌマスギのcDNA配列を使用し、相同遺伝子解析を行った。これら4種のcDNA配列は、約15300の相同遺伝子群にまとめられた。今後は、相同遺伝子群(オルソログ、パラログを含む)ごとに進化速度の推定を行い、水環境ストレスによって誘導される遺伝子群の分子レベルの進化の様相を明らかにする。
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Tree Genetics & Genomes
巻: 15 ページ: 77
10.1007/s11295-019-1386-x