研究課題/領域番号 |
16K07467
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 英治 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (60211984)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / グリコーゲン / 澱粉 / ゲノム編集 / 光合成 / 進化 |
研究実績の概要 |
シアノバクテリアは酸素発生型の光合成を営む原核生物である。多くの種は貯蔵多糖としてグリコーゲンを蓄積するが、ごく一部の種は緑色植物の澱粉に類似した不溶性多糖を生産することが見出されており、シアノバクテリア澱粉と名付けられている。澱粉生産株に共通した特徴として、枝作り酵素の遺伝子が複数見出されるが、因果関係を明らかにするためには個々の遺伝子を改変する技術の確立が不可欠である。形質転換可能な数種のいわゆるモデル株を除き、一般のシアノバクテリアにおいては相同的組換えが効率よく起こらない可能性も想定される。そこで本研究では近年普及しつつあるゲノム編集技術を適用して、澱粉生産性シアノバクテリア Cyanobacterium PCC 10605 における遺伝子改変システムの確立を目指す。あわせて、形質転換可能な Synechococcus PCC 7942 株を用い、実験条件の基礎的検討を行う。 Streptococcus pyogenes 由来 Cas9 遺伝子、および PCC 7942 株の ADP-グルコースピロホスホリラーゼ(AGPase)コード領域内 20 塩基の配列を組み込んだ sgRNA(標的配列を含む crRNA および Cas9 との複合体形成に必要な trancrRNA を連結したもの)遺伝子をシャトルプラスミドに組み込み Synechococcus に導入した。形質転換株においてこれらの遺伝子は安定に保持されたが、標的配列に変異を起こしたクローンは得られなかった。そこで欠失を含む AGPase 遺伝子を鋳型配列として、Cas9-sgRNA プラスミドと混合添加したところ、標的ゲノム領域の欠失が高頻度で認められた。PCC 10605 についても AGPase 遺伝子に抗生物質エリスロマイシン耐性遺伝子を挿入したコンストラクトを作製し、遺伝子導入の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は形質転換可能なシアノバクテリア モデル株である Synechococcus PCC 7942 を用い、条件検討を行った。ゲノム編集の基本的構成因子である Cas9 と sgRNA の遺伝子を導入することにより、sgRNA に組み込んだ標的配列(AGPase)部位が切断され、修復の過程で非相同的末端連結(NHEJ)が起こることにより変異が導入されるものと期待した。しかしながら、複数の形質転換株について標的部位の塩基配列を決定した結果、野生株と同一の配列を保持していることがわかった。そこであらかじめ AGPase 遺伝子に欠失を含むコンストラクトを、Cas9-sgRNA とは別個のプラスミドとして形質転換時に加えたところ、調べた 10 株以上の全てにおいて欠失が生じていることが認められた。このように、① NHEJ 機構のみに依存した変異導入は困難であること、② 形質転換時に修復用鋳型を混合添加することが変異導入に有効であること、が確認できたのは、今後、本研究を遂行する上で大きな収獲であったといえる。 Cyanobacterium PCC 10605 については AGPase 遺伝子のクローン化を行い、さらに同遺伝子に抗生物質エリスロマイシン耐性遺伝子を挿入したコンストラクトの作製まで完了した。ゲノム編集法において同コンストラクトは修復用鋳型として用いる計画である。 本研究では組換え DNA 操作を多用するが、PCR により増幅した DNA 断片をワクシニアウイルス由来 DNA ポリメラーゼ存在下連結する、いわゆるインフュージョン法により実験の効率と柔軟性が格段に向上した。以上、遺伝子改変のためのコンストラクトの作製ならびに基礎条件の検討について順調に進展しているため、本項冒頭の判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
Synechococcus PCC 7942 を用いた実験については、既に得られている形質転換株の追跡調査ならびに形質転換の再試を行う。一般にシアノバクテリアのゲノムは倍数性であり、形質転換株中には野生型および変異型遺伝子が混在していることが認められている。Cas9 と sgRNA 遺伝子が保持された状態で培養を継続した場合、変異型遺伝子が優性となるかを検討する。また複数種の DNA 混合添加による形質転換が高効率で起こるか、さらに対立遺伝子が混在する状況が再現されるか、について試験を繰り返して検証する。AGPase が完全に欠損すれば貯蔵多糖生産能が失われるので、グリコーゲンの定量を行い、変異の影響を検討する。 Cyanobacterium PCC 10605 については AGPase 遺伝子のクローン化を行い、さらに同遺伝子に抗生物質エリスロマイシン耐性遺伝子を挿入したコンストラクトの作製まで完了した。ゲノム編集法において同コンストラクトは修復用鋳型として用いる計画である。本株において自然形質転換法が適用できるのであれば、この修復用鋳型をそのまま形質転換に用いることができるので、まずこれを試行する。並行して大腸菌との接合法による遺伝子導入を想定し、伝達能を持つプラスミド骨格に Cas9 遺伝子、sgRNA 遺伝子、および修復用鋳型を連結する。このとき sgRNA には同株 AGPase 遺伝子の標的配列を組み込む。このように作製したコンストラクトを保有する大腸菌を用い、Cyanobacterium PCC 10605 と混合インキュベーションを行うことにより、シアノバクテリアへの遺伝子導入を試みる。澱粉生産性シアノバクテリアを対象とした接合法による形質転換は、世界的にも報告例がほとんどない。このため、選択培地の組成など実験条件の最適化に向け検討を重ねる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成 29 年度末に植物生理学会にて成果発表することを計画した。交通宿泊費用に関して当初の計画より圧縮することができたので、上記のとおり 9,718 円の差額が発生した。当該の金額は平成 30 年度に計画していた塩基配列解析用経費(上記表中その他の費目)に組み入れて使用する。
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