シアノバクテリアは細胞内共生を通じて色素体になったとされている原核生物である。大部分の種がグリコーゲンを産生するのに対し、Cyanobacterium、Cyanothece などの一部は例外的にアミロペクチン様の貯蔵多糖を蓄積する。解析が先行している Cyanothece 数種は窒素固定能をもつ単細胞種であることから、澱粉性多糖を昼間に大量に蓄積し、夜間これを分解することで呼吸活性を高め、嫌気的酵素である窒素固定酵素が機能しうる低酸素環境を作り出すと考えられてきた。ところが澱粉生産性 Cyanobacterium PCC 10605 株はゲノム配列中に窒素固定酵素遺伝子を持たない。そこで PCC 10605 株、および窒素固定性 Cyanothece PCC 8802 株を用いて窒素栄養(硝酸塩)添加、非添加条件での明暗(12 h/12 h)液体培養を行い、生育および多糖蓄積量を測定した。硝酸非添加条件で PCC 8802 株の貯蔵多糖は明期での蓄積と暗期での分解を反復し、また速度は低いながらクロロフィルの蓄積が見られた。これに対し同条件で PCC 10605 株のクロロフィル量は漸減し、一方、貯蔵多糖量は継続的に増大した。PCC 10605 株では窒素固定能を失い貯蔵栄養を有効に利用はできないものの、多糖の構造物性は維持しているものと考えられた。PCC 10605 株については全 RNA を調製し、硝酸、二酸化炭素欠乏条件における網羅的転写物解析(RNA-Seq)を行った。各無機栄養欠乏時には、対応する代謝の初期段階(イオン取り込み、同化)を担う遺伝子が転写活性化を受ける一方、貯蔵多糖代謝関連遺伝子は顕著な発現量の増減を示さないことを見出した。また澱粉生産性シアノバクテリアへの変異導入を目指して、広域宿主プラスミド骨格に CRISPR-Cas9 を組み込んだ PCC 10605 株 ADP-グルコースピロホスホリラーゼ(貯蔵多糖合成のキー酵素)遺伝子破壊用のコンストラクトを作製し、これを用いて大腸菌との接合法による PCC 10605 株の形質転換を実施している。
|