研究課題
(1)TSHb2欠損イトヨを用いた主要標的組織での遺伝子発現の日長応答性解析|短日条件のTSHb2欠損群の脳、下垂体を用いたRNA sequencingを行った。TSHb2欠損個体で発現が変動する遺伝子のうち、海型と淡水型との遺伝子発現量の違いと一致する候補遺伝子を探索するため、短日条件の海型、淡水型の脳、下垂体のRNA sequencingも行った。脳では、TSHb2欠損個体で66個の遺伝子が発現変動をしており、そのうち、5個が海型と淡水型の遺伝子発現量の違いと一致していた。それらには、神経発生に関わる遺伝子が含まれていた。また、脳トランスクリプトームを主成分解析すると、TSHb2欠損個体のうち複数個体が淡水型様の発現パターンを示した。一方、下垂体では、TSHb2欠損個体で112個の遺伝子が発現変動をしており、そのうち、10個が海型と淡水型の遺伝子発現量の違いと一致していた。これらには、既に候補遺伝子解析から得られている性腺刺激ホルモンの他に、食欲や体サイズ成長、代謝を制御する遺伝子や、エストロゲンレセプター補抑制因子が含まれていた。これらにより、海型で見られる高いTSHb2発現量は、繁殖や体サイズ、神経発生に対して多面的な機能を持つことで、季節繁殖を制御していると考えられた。(2)TSHb2欠損イトヨを用いた主要ホルモン解析|(1)と同様に、TSHb2欠損個体とコントロール個体、また海型と淡水型を用いて、11-KTとEstradiol、T3、T4を計測した。11KTは海型よりも淡水型の方が高く、またTSHb2欠損イトヨでも有意ではないものの高かった。一方、他のホルモンに有意な差はなかった。(3)TSHb2欠損イトヨを用いた繁殖開始タイミング解析|TSHb2欠損個体とコントロール個体を同時期に短日条件から長日条件に移行すると、TSHb2欠損個体の方が早く腎臓が成熟した。
2: おおむね順調に進展している
TSHb2欠損個体でのRNA sequencingが順調に進み、脳と下垂体におけるTSHb2の作用機序が明らかになりつつある。特に下垂体では、これまで発見されてきた生殖腺を制御する下垂体ホルモンだけでなく、マウスやシクリッドで食欲や体サイズ成長に寄与する遺伝子がTSHb2の制御下にあることが明らかになり、TSHb2の多面的な機能が解明されつつある。また、その他にも、主要ホルモンの解析や繁殖開始タイミングの解析も順調である。更に、日本集団を用いた短日条件でのTSHb2発現レベルに対する全ゲノムeQTL解析についても、F1が順調に育っており、来年度にはeQTL解析を行うことができる。
今後は、TSHb2の上流候補cis領域について、トランスジェニックとゼブラフィッシュ培養体ZF4を用いてレポーターアッセイを行い、原因変異を特定する。また、日長変化後の下垂体で早期に発現変動する転写因子と、海型、淡水型のTSHb2上流cis配列をZF4に共導入することで、TSHb2の上流cis配列に結合する候補転写因子の同定を行う。得られた候補原因変異について、CRISPR/Cas9システムを用いてゲノム配列のち感を行う。更に、現在作成中の日本集団のF2交雑個体を用いて、TSHb2の全ゲノムeQTL解析を行う。
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