研究課題/領域番号 |
16K07470
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
齋藤 茂 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 助教 (50422069)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 温度センサー / 温度感受性TRPチャネル / ツメガエル / 祖先配列復元 / 遺伝子改変 |
研究実績の概要 |
動物の環境適応に関連した「温度感覚」の進化的な変化やその分子メカニズムを実証的に解明するため、異なる温度環境に適応したツメガエル近縁種を用いた比較解析を行った。これまでツメガエル2種(アフリカツメガエルおよびネッタイツメガエル)を比較し、高温センサーであるTRPV1チャネルの温度応答特性が異なること、また、この種間差の原因となる3つのアミノ酸置換を同定していた。平成28年度は、TRPV1の温度応答特性の進化過程を明らかにするために、新たに3種のツメガエルのTRPV1を単離して、高温刺激に対する応答特性を調べた。その結果、ネッタイツメガエルTRPV1の温度応答特性が他の4種のツメガエルとは異なっていることが分かった。次に、これらの5種の系統関係を考慮して、TRPV1の祖先アミノ酸配列を推定・復元し、その機能特性を調べることにより温度応答性が変化した時期および系統を実証的に推定した。一方、これまでの研究により、もう一つの高温センサーであるTRPA1チャネルにおいてもアフリカツメガエルとネッタイツメガエルの間で明瞭な種間差を検出している。更に詳細な比較解析を行うために、新たに2種のツメガエルからTRPA1を単離した。 上述のTRPV1やTRPA1の機能解析はアフリカツメガエル卵母細胞に目的遺伝子を人工的に強制発現させて、電気生理学的な手法により機能特性を調べており、生体レベルでこれらのチャネルが温度受容にどの程度貢献しているのかは未だ明らかになっていない。ツメガエルにおけるTRPV1やTRPA1の生理機能を調べるためには、これらの遺伝子を改変した個体の作製が必要である。そこで、平成28年度は、CRISPR/Cas9システムによるTRPV1やTRPA1の遺伝子破壊個体の作出のための実験を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画の一つは、複数のツメガエル種から単離したTRPV1の機能特性を電気生理学的な手法によって比較し、更に、分子進化学的な手法によって祖先TRPV1を推定・復元して温度応答特性が変化したタイミングや系統を実証的に検討することであった。これらの解析は研究実績の概要に記した通り順調に進展している。また、TRPA1についても複数のツメガエル種からの単離が完了しており、機能解析を今後進めていく予定である。 また、遺伝子改変ツメガエルの作出については新規の試みであることや、ネッタイツメガエルの世代時間が比較的長いことから実験を初年度から開始する必要があった。ネッタイツメガエルの受精卵にTRPV1やTRPA1をターゲットにした人工ヌクレアーゼ(guide RNAおよびCas9)を導入し、成体まで育成した(F0世代)。更に、F0 世代の個体を野生型個体に戻し交配して得られたツメガエル(F1世代)を作出し、遺伝子型を調べたところ、TRPV1やTRPA1の遺伝子が破壊された個体が得られた。今後、F1 世代の個体同士を掛け合わせることによりホモ接合のノックアウト個体が得られると期待される。ネッタイツメガエルの世代時間は文献等の情報では3~5ヶ月とあったが、実際に育成してみると成熟までに6~8か月ほど必要であり、当初の予定よりはノックアウトホモ個体の作成に時間が必要であると予想されるが、概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
ツメガエルの近縁種間の比較および祖先配列復元によるTRPV1やTRPA1の進化過程の推定を今後も続けていく。また、祖先配列に変異を導入することによって実際に進化の過程でチャネル機能の変化を生み出したアミノ酸置換の同定を試みる。当初の研究計画には含んでいなかったが、ツメガエル以外の分類群を用いた比較解析も進めることにより、温度適応に関連した温度受容機構の進化における共通性や多様性を調べる予定である。 更に、TRPV1やTRPA1のノックアウトホモ接合個体を作出し、これらの個体を用いた行動解析を行うことを目指す。具体的には、TRPV1やTRPA1を活性化する化学物質や高温の刺激に対する個体レベルの応答性をノックアウトと野生型個体で比較し、それぞれの温度センサーが個体レベルの感覚やそれに基づく行動応答にどの程度貢献しているかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子改変ツメガエルが平成28年度中に作出できなかったために、ツメガエルの飼育や行動実験等に使用する機器や材料を購入しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度にツメガエルの飼育や行動実験等の機器や機材の購入を行う計画である。
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