研究実績の概要 |
生息地の温度環境に関連した温度感覚の進化的な変化やその分子メカニズムを解明するために、4種のツメガエルを用いた比較解析を進めてきた。いずれの種もアフリカ大陸に分布し、2種(Xenopus muelleri, Xenopus tropicalis)はおもに熱帯地域の低地に生息することから暖かい温度環境に適応しており、一方で、残りの2種(Xenopus borealis, Xenopus laevis)は高地に生息することから涼しい環境に適応していると考えられる。前年度までの研究で、高温センサーとして働くTRPV1を比較し、温度応答特性の進化過程を明らかにしてきた。本年度は、もう一つの高温センサーであるTRPA1について4種のツメガエルの間で比較解析を行った。その結果、TRPA1の温度感受性(活性化温度閾値)については生息環境に関連した種間差を見出すことができなかった。一方で、高温に対する活性を比較したところ、涼しい環境に適応した2種のTRPA1の活性は暖かい環境に適応した2種に比べて有意に高いことが示された。すなわち、TRPA1の高温に対する活性が生息環境の温度条件に応じて変化してきたことが明らかとなった。 また、TRPV1とTRPA1が個体レベルの行動応答に実際に関与しているのかを検討するために、CRISPR/Cas9を用いて各遺伝子を破壊したツメガエル系統の作出を進めてきた。前年度までにTRPA1の遺伝子破壊系統を作出し、この系統の幼生(オタマジャクシ)はTRPA1のアゴニストに対する行動応答が著しく減弱していることを確認した。本年度はTRPV1の遺伝子破壊系統の作出を完了させ、更に、TRPV1とTRPA1の両遺伝子を破壊した系統の作出も進めてきた。今後はこれらの系統の幼生を用いて高温刺激に対する行動応答にTRPV1およびTRPA1が寄与しているかを検討する。
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