研究課題/領域番号 |
16K07473
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加藤 徹 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (80374198)
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研究分担者 |
戸田 正憲 北海道大学, 総合博物館, 名誉教授 (40113592)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 草食性ショウジョウバエ / 遺伝分化 / 生態的種分化 / 生殖隔離 / 産卵選好性 / ニリンソウ / フッキソウ |
研究実績の概要 |
Lordiphosa collinella(サキグロショウジョウバエ)は、日本を含む東アジアに広く分布するショウジョウバエで、ニリンソウなどの草本を主な繁殖資源として利用している。一方、北海道には、これと形態的に酷似したLordiphosa sp. aff. collinellaと呼ばれる未記載種がL. collinellaと同所的に分布するが、本種はフッキソウの群落上から高頻度で採集される。これらの観察状況から、Lordiphosa sp. aff. collinellaはL. collinellaの一部系統からフッキソウへと資源利用を変換することで同所的に分化したという、生態的種分化の仮説が予想される。 この仮説を検証するため、L. collinellaおよびL. sp. aff. collinellaのそれぞれについて、ミトコンドリアDNAのCOI領域と核DNAのAdh領域の塩基配列を決定し、集団間における遺伝分化の程度を調査した。その結果、ハプロタイプのグルーピングのみによって両種を識別できるほどの顕著な差異は認められなかったが、Fstは2種の同所的な集団間で有意な値を示したことから、両種の生殖隔離はすでに成立済みで、種分化が比較的短時間で生じた可能性が示唆された。 また、両種の資源利用の様式に違いがあるかを検証するため、ニリンソウとフッキソウに対する雌成虫の産卵選好性を調査した結果、L. collinellaはニリンソウに、L. sp. aff. collinellaはフッキソウに好んで産卵する傾向が認められた。一方、幼虫の生育実験を行ったところ、両種ともニリンソウとフッキソウで成虫まで生育する個体が確認された。従って、雌成虫の選好性の違いにより、両種はそれぞれ異なる食草を繁殖資源として利用している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝分化の解析については、これまで、L. collinellaについては国内30地点に加え中国6地点の試料(合計584個体)、L. sp. aff. collinellaについては北海道13地点の試料(合計262個体)を対象に、COI遺伝子とAdh遺伝子の塩基配列を決定して解析を行なうことができた。従って、遺伝解析用の試料収集は非常に順調である。また、両遺伝子を解析したところ、ハプロタイプネットワークのトポロジーからは2種を識別できないが、Fstは2種の同所的集団間で有意な値を示すという、一致した結果が得られている。 また、雌成虫の産卵選好性(oviposition preference)、および幼虫の生育(larval preformance)の解析については予備調査の段階であるものの、幼虫の生育能力に顕著な違いが認められなかった一方、雌成虫の産卵選好性に違いが認められるという、興味深い傾向が観察されている。 従って、これらの進捗状況から、現在までの達成度については、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
原則としてH28年度の作業を継続するが、以下の項目について注意を払う。
1. 試料採集:遺伝解析用の試料については、両種とも、地点および個体数ともに十分となりつつある。しかし、本州中部地方におけるL. collinellaの試料数は未だに不十分なので、これらの試料採集を追加で行なう。また、当然ながら、飼育実験用の試料には生きた個体が必要なので、実験に必要な成虫個体を随時確保する。 2. 遺伝分化の解析:遺伝分化の解析については、近年、次世代シークエンサーのコストが非常に安価になってきたので、従来のサンガー法で得られた塩基配列の解析のみならず、MIG-seq(multiplexed ISSR genotyping by sequencing)法を用いたゲノムワイドなSNP解析の方法を検討する。 3. 飼育実験:雌成虫の産卵選好性(oviposition preference)、および幼虫の生育(larval preformance)の解析については、まだ試行回数が少なく予備的解析の段階なので、H29年度以降は試行回数を増やすとともに、統計処理の方法も吟味する。
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