研究課題/領域番号 |
16K07474
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
田中 和明 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (60431433)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 菌類 / 種分類 / 隠蔽種 / 分類体系 |
研究実績の概要 |
塩基配列データに基づいた分子系統解析の利用により、菌類分類学は急速に進展し、分類体系の整理が進んでいる。基本単位である菌類の「種」については、バーコーディング領域のリボソームDNAのITS配列を比較することで、合意が得られている。しかし、既知種の大半を占める古い種 については、培養株が存在しないことから塩基配列を決定できず、系統的な議論がされないまま保留とされているのが現状である。この問題点を解決するため、近年では「エピタイプ指定」という命名規約上の処理がなされているが、この処理を正確に行うためには、菌類がもつ微小な形態的差異の系統学的重要性について再評価する必要がある。 そこで本研究では、形態的に1種とされている菌類集団について分類学的再検討を行うことで、かつては種内におけるわずかな形態的変異と認識されていた形質についての、系統的有用性を評価するとともに、隠蔽種の存在を明らかにすることを試みた。具体的には、1) 宿主植物の「属」が同じであれば、寄生する菌類種が同一であるとされている分類群、2) 宿主植物の「科」が同じであれば、寄生する菌類種が同一であるとされている分類群、3) 宿主特異性は存在せず、広範な植物基質に生じるとされている腐生的分類群、を対象とし、菌類分類学における「種」について形態比較と分子系統解析から再検討した。これにより、日本産菌類の多様性 (本邦には想像以上に多数の菌種が存在すること) と独自性 (欧米産の菌種とは異なる独自の種構成が存在すること) を明らかにすることを目的とした。 2017年度はブナ類寄生菌、タケ科植物寄生菌などの種を重点的に再評価し、4新科・8新属・12新種・3新組合わせの菌を命名・記載し、日本における菌類多様性の一端を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度は研究対象とする3菌群のうち、1) 宿主植物の「属」が同じであれば、寄生する菌類種が同一であるとされている分類群(ブナ類寄生菌)、2) 宿主植物の「科」が同じであれば、寄生する菌類種が同一であるとされている分類群(タケ科植物寄生菌)、について、新たな菌類試料を収集する目的で、採集調査を行った。新たに得られた290菌株のうち250菌株については、28S nrDNA 配列を解析し、系統推定を試みた。また、昨年度までに収集された多数の菌株についても、28S nrDNA 以外の配列を取得し、分子系統解析による系統推定を順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、ターゲットとする菌群について、28S rDNA 以外の配列データを解析するとともに、形態形質のデータ取得に重点を置く。これにより、隠蔽種の存在を明らかにするとともに、菌類の微小な形態形質がもつ系統的有用性について総合評価を行い、日本産菌類の多様性と独自性を明らかにする。
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