研究課題
昨年度から引き続き属の分類学的適格性の検証を一つ一つ行い,2017年12月にフランスで170属を審議した.結果的に,図なしが367属,新参同物異名792属,異物同名41属,置換名29属,無効名80属,存在が疑わしいのが400属,放散虫以外の生物21属を整理した.2018年1月30日現在で,新生代では有効名1643属と,初めて正確な属数を特定するにいたった.実質的適格名は407属と見積もることが出来た.つまり,新生代には1730属あまりが記載されたが,23.5%が実在することを明らかにした.次の段階として,主要な属の生存期間を種レベルで決定するために,3338種の生存期間の検証をフランスで行った.この過程で,現在の所属が明らかにおかしい種が次々と見つかり,1種づつ適切な属を探し出す作業を行った.途中経過報告として,2017年10月下旬に新潟で開催された第15回国際放散虫研究集会(InterRad XV)でポスター発表を行い,専門家から口頭でフィードバックを得た.そのうち重要な指摘は,分子系統解析と分類体系の整合性への対応状況であった.それにたいして,平行して研究代表者がフランス・ロスコフと協同研究している放散虫の分子系統解析の未公表データと,従来の系統分類体系とを見比べつつ「分子系統ー形態分類」の調整を図っている旨を回答した.遺伝子用にさらにInterRad XVの巡検で沖縄・瀬底島に行き,追加標本を得た.この標準化されつつある属の体系を用いて,研究事例が少ない北海道の中新世前期放散虫顕微鏡スライドを検証したところ,十数の新属があることが新たに判明した.始新世後期放散虫との系統関係が不明なこともこの過程ではっきりしたため,ノマルスキー型微分干渉装置で「微小形態構造による属・科の系統特定」に着手したところである.
1: 当初の計画以上に進展している
検証する属が千単位であるため,申請時には平成30年度にも続けて検証しなければならないと想定していた.検討委員での合意や意見調整が迅速に行われた結果,属の分類学的位置づけの検証が終了した.そこで,当初は不可能と考えていた「種の生存期間によるボトムアップ方法で属の生存期間を見積もる」作業が出来る状況に至った.平成29年度で1400種近い種の生存期間が検証された.最終的に6000種ほど検証する必要があるが,これまでの作業進捗から計算する限り,現実的な計画を立てられる見込みである.「科」について放散虫では著しい意見の相違があるので,計画をスタートした時点では扱わない方針であった.しかし,本課題の研究代表者は,かって別プロジェクトで放散虫の分子系統ー形態分類の研究をフランス・ロスコフ研究所と途中まで進めていた.つまり「科」を適切に配置させる予備情報は得ており,それを念頭にSuzuki & Not (2015)として書籍「Marine Protista」に予め「科」の区分を報告してあった.2017年になってからロスコフ研究所側で分子系統解析作業が大規模に再開され,ほとんどの「科」の位置づけはSuzuki & Not (2015)と概ね一致することが確かめられた.そちらの論文化が進行中なので,本課題の論文投稿時には「科」の位置づけを明確に示すことができる見通しが立ってきた.この点は,当初予期していないことであった.平成29年度内の「種」の検証で,多くの種が不適切な属に配置されていることもはっきりした.この事実は新生代放散虫研究では常識的既知なことであったが,平成30年度の予定にある「出版用原稿を作る」過程で,大きく改善へ一歩を踏み出せる見通しが立ってきた点も,当初の計画以上に進展しているところである.
本研究課題の成果出版について,フランスの学術雑誌「Geodiversitas」で出版する約束を取り付けた.雑誌の出版計画との兼ね合いで2021年9月までに印刷物が出るような進行で行う事がほぼ確定した.同じような「属の標準化事業」は中生代(2009年出版),古生代(2017年出版)で完成されているので,項目は確定している.「経緯」,「1章 属の研究史」,「2章 整理された属のタイプ種画像集」,「3章 属の最新定義」,「4章 新生代の全種のリストと生存期間」である.そのうち4章の研究が平成30年度の中心となる.「2章」にあたる画像集は出版形態に合わせて平成29年度内にすでに作業が始まっている.平成30年度は,2章の進捗を追いかける格好で,3章と4章を行き来しつつ執筆にあたる.4章については委員と面談して進める必要があるので,3週間ほどフランスで集中審議を計画している.29年度の検証作業で,多数の未記載属が見つかった奥尻島の中新統下部を調査する予定である.研究実施計画では,「デジタル分類ソフトウェアへの搭載に向けたデータセット」の用意をあげている.このデジタル分類というのは,ユーザーが放散虫標本の特徴をチェックしていくと,自動的に可能性のある属が絞られていく,というものをここでは指す.将来的にはAIなどに結びつけるため,その素材の整理と言って良く,素材の在り方は使用するソフトウェアに依存する.少なくとも科研費やNSFの支援で作成されたソフトは支援終了とともにインターネットから消されているため,本課題では独自開発はしない.これを実現するソフトウェアはこの十数年に出ては消えていくを繰り返しいるのが実情だが,十数年維持・更新が保たれているLucidなどの商用ソフトがあるので,平成30年度はその利用を念頭に作業を進めたい.
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 8件、 招待講演 4件)
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