研究課題/領域番号 |
16K07478
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
塚越 哲 静岡大学, 理学部, 教授 (90212050)
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研究分担者 |
山田 晋之介 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特定研究員 (30772123)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感覚受容 / ポアシステム / 貝形虫 / 蔓脚類 |
研究実績の概要 |
初年度としては,まず観察用機器の整備を行い,微細な感覚毛やその開口部の観察が可能な設備作りに努めた.走査型電子顕微鏡は既に旧式であるが,現在10,000倍程度の観察は可能となり,微分干渉付き光学顕微鏡も良好な状態となっている. 貝形虫類については,手始めとしてBairdia科を中心に観察を行った.同科は,石炭紀からほとんどその形質状態を変えていないことで知られる.その背甲上には夥しい数の感覚毛を有するが,感覚毛とその支持構造は,単純な感覚毛と同じく単純な穴からなるもののみが従来から知られていた.しかし,今回の電子顕微鏡による同科の種Bairdia sp.の詳細な観察により,感覚毛にはその太さから太いものと細いものの少なくとも2種類に大別でき,さらに太いものにはその先端が枝分かれするものとしないものが混在することが確かめられた.この結果は,比較的原始的な体制をもつ同科でも,感覚毛の種類を細かく分化させ,外部刺激を細かく分けて受容することによって,外部環境情報を的確に分析していることをうかがい知ることができた.また,同科の種Anchistrocheles sp.についても同様に背甲上の感覚毛を観察した.本種は,間隙環境に生息することで知られ,表在環境に棲む他の同科の分類群とは生息環境を大きく異にしている.観察の結果,本種においては,感覚毛は極めてまばらであり,表在環境に棲むものとは大きく異なっていた.また,感覚毛の支持構造は単純な穴だけでなく,ロートのような縁取りをもつものも見られ,従来の同科の感覚毛の支持構造には見られない構造を見出すことができた. 貝形虫類以外では,蔓脚類・エボシガイ科について観察を行った.背板や循板の自由縁に沿って感覚毛の一部と思われるものを認めることができたが,標本の状態が悪いため,電子顕微鏡を用いてもあまり明確な構造観察はできなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感覚毛の観察はBairdia科の種を中心に行い,多くの新たな知見を集積することができた.また,本研究を進めるにあたり,間隙環境に生息する同科の未記載種(希少種であると思われる)を見出すことができ,副産物も得ることができた. ただし,貝形虫以外の甲殻類(蔓脚類:エボシガイ類等)や他の節足動物についてはまだ情報が少なく,良好な状態の標本を集めるとともに,標本の作成方法にも工夫が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
系統的同一性が保証され,且つ様々な環境に適応している分類群として,機能と系統,および生息環境との関連性がつかみやすいため,貝形虫類Bairdia科の種は今後も中心的な素材として注目してゆく.特にAnchistrocheles 属の2未記載種については,記載を開始するとともに,感覚毛と開口部の形状や背甲上の分布位置などについて,詳細な観察を継続してゆく.貝形虫類については,特に背甲自由縁に沿った部位に発達する感覚毛について,クチクラ・ラメラである耳縁(selvage)との関連と共に,閉殻感覚受容器としての視点から考察を進めてゆく. また,蔓脚類の中でも,比較的原始的でかつ貝形虫類に類似した閉殻システムをもつとみなされるエボシガイ類についても同時に考察を進めてゆく.エボシガイ類については,これまで良好な状態の標本が少なかったため,新たに保存状態の良い標本を用いて.貝形虫類と同様に,自由縁に沿った部位に発達する感覚毛について,閉殻感覚受容器としての視点から考察を進めてゆく.
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