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2017 年度 実施状況報告書

貝形虫類にみられる閉殻感知システム―化石生物への展望と進化学的考察―

研究課題

研究課題/領域番号 16K07478
研究機関静岡大学

研究代表者

塚越 哲  静岡大学, 理学部, 教授 (90212050)

研究分担者 山田 晋之介  国際医療福祉大学, 医学部, 助手 (30772123)
研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード感覚受容 / ポアシステム / 貝形虫 / マイクロハビタット / 感覚毛
研究実績の概要

Bairdia科貝形虫の一属Anchistrocheles Brady & Norman, 1889の種が日本では沖縄県瀬底,和歌山県元嶋,静岡県三保,神奈川県三崎より産出した.しかし4地点の種それぞれの分類学的判断は、なされていないため各々についてまずオスの交尾器の形態に基づいて種分類を行った.雄の交尾器の形態比較から,それぞれAnchistrocheles sp. 1(瀬底産),A. sp. 2(元嶋および三保産)、A. sp. 3(三崎産)とした。分子系統解析の結果はこれを支持するものとなった.殻のポアシステム(感覚子孔)の分布は,得られた個体数の多いA. sp. 2とA. sp. 3について調べられ,共に発生後期はその分布配置が個体群内でも不安定で種ごとの傾向をつかめなかった.一方個体発生初期では,種間でも分布が安定的であった。従って発生初期のポアシステムの分布形態は、Anchistolocheres属,ひいてはBairdia科の系統を推定するツールになりえると考えられる.
背甲には,selvageと呼ばれるキチン質と思われるテープ様の膜が自由縁に沿って発達し,本研究ではBairdia科,Cytherura科,Cythere科,Candona科で確認され,この形質が貝形虫類全体に普遍的に共有されていることが示唆された.またどの分類群においても,このsalvageに沿って,単純な(分岐や房状構造,小孔等を持たない)感覚毛をもつポアシステムがほぼ等間隔に配置されている.SEM観察から,閉殻時には,左右の殻の自由縁に沿ったsalvageが触れあい,同時にポアシステムの感覚毛も外側に倒れる様子が観察された.この閉殻感覚受容のシステムは,貝形虫類に広く共有されていることが強く示唆された.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究によって,Bairdia科,Cytherura科,Cythere科,Candona科でselvageとそれに伴う等間隔のポアシステムの配列を確認できた.これまでCythere上科にのみ観察されたが,分類群も生態も大きく異なるCypris上科からも同様な構造が発見されたことは大きく,この閉殻感覚受容システムが,貝形虫類に広く共有されている可能性を示唆することができたことは大きい.
ただ,残念ながら当初の予察とは異なり,蔓脚類エボシガイ科Lepus属を観察する限り,循板周辺には感覚毛の配列は確認できず,この分類群においては,必ずしも閉殻感知を感覚毛の接触感覚によって行っているとは言えない,という状態である.他の蔓脚類,例えば閉殻機構がエボシガイフジツボ科で同様に接触感覚をつかさどると考えられる感覚毛の存在を探してゆく.
二枚貝様の背甲を有する甲殻類において,この閉殻受容システムがどの範囲まで共有されているかが今後の課題となる.

今後の研究の推進方策

これまで,表在性種を中心にポアシステム(背甲上の感覚器官)の分布を観察し,その機能について考察を進めてきたが,今後は砂間間隙に生息する間隙性種について特に着目し,テータを取り進めたいと考えている.間隙性種は,表在性種と異なり,狭隘な空間で四方を堆積物に囲まれて生活している.また,日光が遮断された半暗黒な環境であるため,間隙性種には目が退化している種が多く含まれる.このような特殊な環境に生きる分類群と,表在環境に生きる分類群を感覚受容の観点から比較を試みたい.これまでの予察では,同属種と分類できる表在性種と間隙性種を比較したところ,背甲サイズの絶対値では,後者が大幅に小型化しているにもかかわらず,例えば第一触角先端部から派生する剛毛は絶対値で同等かやや間隙性種の方が長いというデータも出てきており,背甲表面のポアシステムの感覚子がどのようになっているかについて,考察を進めてゆく.
本年度は最終年度に当たるので,研究成果の一部を学会(日本動物分類学会(鹿児島大学),Asia Ostracodologists Meeting(金沢大))等で,発表してゆくとともに,国際誌に投稿する予定である.

次年度使用額が生じた理由

今年度中に行うフィールドワーク(標本の採集),標本の検鏡,SEM撮影等はほぼ予定通りに進行したが,データ整理にやや時間がかかった.この成果を学会の大会等で公開するための時間が取れなかったので,このための旅費として次年度使用とした.

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] One new species and three records of cytheroid ostracods (Crustacea, Ostracoda) from Korea2017

    • 著者名/発表者名
      Karanovic, I., Tanaka, H. & Tsukagoshi, A.
    • 雑誌名

      Journal of Species Research

      巻: 6 ページ: 38-50

    • DOI

      10.12651/JSR.2017.6(S).038

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 海浜間隙環境に生息する貝形虫の多様性と進化2017

    • 著者名/発表者名
      田中隼人・塚越 哲
    • 雑誌名

      遺伝

      巻: 71 ページ: 339-346

    • 国際共著
  • [雑誌論文] 貝形虫類(甲殻:節足動物)の自然史研究-化石からDNAまでを視野に-2017

    • 著者名/発表者名
      塚越 哲
    • 雑誌名

      タクサ

      巻: 43 ページ: 1-10

    • 国際共著
  • [雑誌論文] 現生生物を対象とした古生物学研究 その2 -貝形虫類の進化と多様性の研究例-2017

    • 著者名/発表者名
      塚越 哲
    • 雑誌名

      化石

      巻: 102 ページ: 15-30

    • 査読あり
  • [学会発表] 駿河湾沿岸域に漂着したエボシガイ(節足動物門:甲殻類)の形態分類と主要形質の変異に関する考察2018

    • 著者名/発表者名
      渡邊拓弥・塚越 哲
    • 学会等名
      日本付着生物学会2018年度総会・研究集会
  • [学会発表] 御前崎海岸に漂着したエボシガイ(節足動物門:甲殻類)の形態分類と主要形質の変異に関する考察2017

    • 著者名/発表者名
      渡邊拓弥・塚越 哲
    • 学会等名
      日本動物分類学会第53回大会
  • [学会発表] 貝形虫類(Ostracoda)の自然史研究2017

    • 著者名/発表者名
      塚越 哲
    • 学会等名
      日本動物分類学会第53回大会
    • 招待講演
  • [学会発表] 浜名湖における貝形虫(甲殻類)の生息分布の変遷2017

    • 著者名/発表者名
      中村大亮・塚越 哲・佐藤慎一
    • 学会等名
      2017年日本プランクトン学会・日本ベントス学会・合同大会
  • [備考] World Interstitial Animal Database ~間隙性生物の世界~

    • URL

      http://earth.jpn.org/world-interstitial-db/

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公開日: 2018-12-17  

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