研究実績の概要 |
代表的な内湾性種貝形虫類であるBicornucythere bisanensisの種分類を総括し,我が国とその周辺では単一種内にいくつかの形態群があるとみなされていたこれまでの見識を覆し,八代海産の本属種が未記載種であることを雄性生殖器の形態から突き止めた.またB. bisanensis s.s. の集団標本を扱うことによって,雄性交尾器に一定の多様性があることを認めるとともに,左右の雄交尾器の先端(distal lobe)に複数の形態(Shape R, r, L, l)が存在することを示し,かつそれらの組み合わせに基づき,雄個体を4形態群に分けた.この4形態群について,感覚器官であるポア・システムに着目して比較を行ったところ,ポア・システムの配列にも雄性交尾器に基づいた4形態群ごとに異なる特徴が現れていることが明らかになった.これら4形態群は,共通形質の組み合わせからなることから,交配可能な同一種内の変異と考えられるが,交配の際に形態群間で交尾頻度の違い等が存在する可能性が示唆される. また本種のポア・システムにはその感覚毛の形状から「花冠状」,「放射状」,「直線状」の3形態に大別され,このうち「放射状」と「直線状」は,感覚毛の長さや分岐の頻度からさらに細分することが可能である.また,「花冠状」はその数や位置が他に比べて個体群間で安定であり,かつ交尾器にみられた4形態群各々について固有に対応することが認められた.これによって,ポア・システムの形態と分布には,機能的な要因だけでなく,系統的要因が支配していることが強く示唆された.
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