研究課題/領域番号 |
16K07485
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
菅原 敬 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (10226425)
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研究分担者 |
清水 晃 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (10315749)
渡邊 謙太 沖縄工業高等専門学校, 技術専門職員 (50510111)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ハテルマギリ / 二型花柱性 / 送粉様式 / 繁殖様式 / 先島諸島 / 同型花不和合性 / アカネ科 / スズメガ類 |
研究実績の概要 |
本研究は、先島諸島以南に分布するハテルマギリ(アカネ科)において見られる特異な二型花柱性の適応・進化的意義について送粉様式や繁殖生態学的な側面から解明することを目的とした。この問題解決のために、西表島と波照間島集団で以下のような調査を行い、これまでに次のような成果を得た。 1)まず、特異な二型花柱性、すなわち二型花間で雄蕊と雌蕊の高さが対応しない、という通常の二型花柱性には見られない特徴は西表島集団だけでなく、波照間島集団でも確認されることが判明した。 2)このような二型性の繁殖システムを解明するために、西表島集団を使って、自家授粉、同型花間授粉、異型花間授粉を行った。また自然状態での結果率と結実率についても調査した。その結果、本種は基本的に自家・同型花不和合性であることが判明した。これは通常の二型花柱性と一致する繁殖システムである。従って種子を形成するためには、異型花間での送粉を必要とすることを示唆する。一方、短花柱花では柱頭が花筒内の低い位置にあることから、長花柱花よりも結果率において劣ることが想定されたが、野外での結果率は二型花間で同等であった。この事実は、二型花間の送粉が同等に行われていることを示唆する。 3)送粉者についてインターバルカメラと赤外線ビデオカメラを用いて西表島と波照間島集団で調査した。その結果、赤外線ビデオカメラでははっきり捉えることができ、その有効性が確認された。花には夜行性のスズメガ類が訪花することが確認され、長い口吻を花筒内に挿入する様子が確認された。今回の調査では2集団で訪花者が異なっていたが、その再現性については更に調査する必要がある。 4)GC-MS法で花香成分を分析した。その結果、本種の西表島集団における特徴的な花香成分はモノテルペンとベンゼノイドでガ媒花を想定できる成分であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査がやや遅れている理由としてまず挙げることができるのは、調査地へのアクセスのむずかしさである。今年度の調査では、西表島と波照間島の二島において、それぞれ二度の調査を計画していた。しかし、実際には各1回の調査しか実施することができなかった。その理由は調査を予定していた期間にこれらの島に台風が襲来して現地へ行くための飛行機や船などの交通手段がすべてストップし、調査が実施できなかったためである。また、台風通過後は現地の植生への影響が大きく、特に海岸に生育するハテルマギリへの影響は予想以上に大きく、開花個体を使った送粉生態学的調査は極めて難しいことが分かった。改めて琉球列島の島々での調査の難しさを実感した次第である。 次に理由として挙げられるのが夜間における送粉様式の調査の難しさである。先行研究で、夜間に花を開く植物における送粉昆虫の把握にはインターバルカメラの活用が有効であることが示唆されていた。しかし、ハテルマギリの場合にはそれは全く活用でなかった。赤外線ビデオカメラを使用することで、訪花昆虫を初めて捉えることができた次第である。また実際の訪花時間も通常1秒未満と極めて短い時間であり、インターバルカメラでは対応できない時間と確率のように思われる。さらに訪花昆虫は弱くても人為的な赤色光を避ける傾向が認められた。そのため、暗闇での送粉昆虫の訪花や送粉行動の調査は予想以上に難しく、今後もう少し何らかの工夫をする必要がある。また送粉昆虫を同定するためには訪花昆虫の捕獲が必要であるが、それをこれまでの調査ではできていない。二型花間で花柱や雄蕊がずれる、その適応的意義を探るうえでも送粉昆虫の捕獲は重要と考えているので、何らかの手法を考案し、捕獲を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は西表島と波照間島での調査を継続するだけでなく、分布の中心により近い台湾南部での調査も進めたい。具体的には、今年度以下のような目標をもって進めていく計画である。 1)これまでの調査で国内のハテルマギリ集団は、いずれも二型花柱性を示し、二型花間で雄蕊と雌蕊の高さがずれた状態にあることが確認されたが、これが他の集団、特に分布の中心により近い台湾南部の集団においても同様に確認できるかどうか調査を進める。 2)さらに台湾の集団においても、その送粉昆虫としてスズメガ類が関与しているかどうかを確認するとともに、送粉昆虫を捕獲し、また送粉昆虫の行動と特異な二型性との関連に着目して調査を進める。この調査には赤外線ビデオカメラを多用し、また場合によっては暗視スコープを併用して送粉様式の解明に努める。これらは西表島や波照間島集団でも行う。 3)日本の集団においては、島間で送粉昆虫が異なるのか、あるいは共通するのか、送粉昆虫相の実態把握に努める。また、花筒の一部にスリットを入れるなど処理した花を用いて、送粉様式の実態把握に努める。さらに野外での自然結果率や二型花個体の比率を集団ごとに調査し、訪花頻度との関連を調査する。波照間島の集団については、自家授粉、同型花間授粉、異型花間授粉実験、そして野外での自然結果率等を調査し、他の集団との比較データを得る。 4)花香成分については西表島以外の他の集団についても調査し、集団によって花香成分に違いがみられないかどうかについて調査を進める。特異に注目すべきは、蛾類の誘因に深く関与するとされるリナロール成分の割合である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の調査において、予定していた野外調査が調査地周辺に襲来した台風の影響で調査ができなかったために、旅費としての支出ができなかった。そのために次年度への繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度できなかった西表島や波照間島での野外調査は、今年度あらためて実施する予定を組んでいる。前年度繰り越した予算については、この調査のための旅費として使用する計画である。
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