ミナミカワトンボ科(Euphaeidae)は,日本南部から東南アジア,さらに中東にかけて生息するカラフルなトンボ類である.本研究では,これらミナミカワトンボ科全属に関して,オスの交尾器とメスの精子貯蔵器官の形態的対応性を検討するとともに,一部のグループで見られる特殊な構造のオスの交尾器が毛細管現象を利用した精子掻き出し構造をするのではないかという仮説を検証する.これまでの我々の研究で,この仲間のベトナムおよびその近隣地域における分類学的整理は行われたが.さらに他の地域の標本の収集に努めた.これまでに得たミナミカワトンボ類の標本からDNAを抽出し,16S rRNA,COIの塩基配列を求め,分子系統樹の作成を行なった.また,2018年10月1日から31日まで,共同研究を行なっているベトナムのPhan主任研究員を招待し,この仲間の形態に基づく分類学的検討と今後の野外調査の打ち合わせを行なった.学生の一人が中国四川省において6月に野外調査を行った.オスの交尾器はすべて生時に写真撮影を行い,これまでに得られたすべての標本の外部形態の計測を行い,分子系統樹上で比較した.合わせて,全標本の頭幅,前翅長,後翅長,翅の斑紋長を測定し,相対成長解析を行い,一部の結果は,依頼原稿「林 文男(2018)ミナミカワトンボ類のオスの翅の模様と交尾器にかかる性選択.昆虫と自然,53 (5): 10-12」として出版された.さらにこれまでに集めてエタノール標本となっている各種オスの交尾器を用いて,毛管現象でどのような粘性の液体が吸収されやすか定量的に評価を行なった.これらの結果すべてをまとめ論文を作成中であるが,その作業はまだ継続中である.
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