本研究は,広域分布する蘚苔類の分布域内における地域集団間分化の有様を,形態・分子マーカ-を使って推定すること,具体的には対象種群を西南日本から東・東南アジアにかけて分布する種群から複数の群を選択して解析対象とすることにあり,フロラという全体としての漠然としたまとまりではなく,個別の種群において解析を進めることで,より実証的なデータを着実に積み上げることに力点を置いている. 本年度の主な成果としては,西南日本に分布するコモチイトゴケ科のうち,西南日本に分布する稀少種である蘚類ヒロハコモチイトゴケ属,オオタマコモチイトゴケ属,ならびに苔類のジャゴケ属について研究を行い以下の成果を得た. (1)従来広域に隔離分布する1種とされていたヒロハコモチイトゴケが,少なくとも4種から成り立ち,それらは新属Clastobryellinaとしてまとまり,特に日本の屋久島において形態が酷似した2種が同所的に分布すること,(2)日本,中国,台湾のオオタマコモチイトゴケ属を検討したところ,これまで広域に分布する2種とされたいたものが,あらたに少なくとも8種から成り立ち(うち4種は新種),それぞれが固有の分布域をもつこと,(3)ジャゴケ属にはヒメジャゴケとジャゴケの2種が認められていたが,両者は別属とするほど遺伝的に異なった実体であること,これまで多型な1種とされたジャゴケは少なくとも世界で6種の隠蔽種に分割されていたが,調査の結果日本にそのうちの4種(うち1種はあらたに本研究で認識されたもの)が分布しており,それぞれの種は固有の形態をもつばかりでなく,地質・気候に対応した分布域を有すること.
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