研究実績の概要 |
小笠原諸島は日本列島から約1,000km南方に離れ、親潮・黒潮・対馬海流の影響を直接には受けないため、日本列島で設定されている区分とは大きく異なる海藻相が成立していることが予想される。本研究は、この海域の特性を解明することを目的に小笠原諸島において海藻相を浅所と深所の両方で調査するもので、最終年度は平成30年7月に小笠原漁業協同組合の協力で「第七潮丸」を使用して父島、兄島、弟島、南島沖40~80mの海底からのドレッジ採集を実施するとともに、父島内3箇所の沿岸の潮間帯付近でスノーケリング採集を行った。 調査の結果、前年度までに採集されていた同定困難種や本州で稀産の種が再採集されたほか、浅所から潮間帯には珍しいエツキシマオウギが採取されたのに加え、40m以深の深所から北半球未産のアオサ藻綱シオグサ科の1種 Lychaete bainesii (F. Mueller et Harvey ex Harvey) M.J. Wynne が得られた。この日本新産海藻は「サキボソシオグサ(新称)」として、日本植物分類学会大会で報告した。 これまでの調査・研究によって、父島では潮間帯付近と低潮線から水深40m程度までの浅海域には日本列島と共通の海藻種が多く分布する一方、40m以深の海底に日本列島の沿岸にはみられない海藻種が多数生育することが確認できた。上述のサキボソシオグサのほか、研究期間中に得られたアオサ藻のチクビミル(新称)、紅藻のベニヤブレガサ(新称)などが日本新産の種である。56~63mの深所から発見した褐藻ウミタンポポ(新称)は解剖学的形態観察と遺伝子解析の結果、ケヤリモ目の新種(記載準備中)と判明した。深所における海藻相の特性は、小笠原諸島が日本列島の区分にはあてはまらないことを示した。
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