近年,気候温暖化の影響により気温の上昇とともに多くの昆虫類が分布地域を北上させている.そのような種の分布拡大地域における集団遺伝構造の解明は,その種の分布拡大にともなう適応的,進化的プロセスの解明に重要であるが,実証研究の例は日本ではまだ少ない. 本申請であつかったダンダラテントウは,赤道地方から中緯度地域に広く分布し,申請者らの先行研究により,1910年代から1990年代にかけて,気候温暖化に伴い日本の九州地方から関東・北陸地方へ分布を拡大したことが予想された.また本種は斑紋型に赤い型から黒い型まで多型をもち,高緯度ほど黒い型の割合がたかいなだらかなクラインを示す. 今回の申請者らの研究から,本種の台湾から千葉県(分布北限)における21地域232個体のミトコンドリアCOI領域の620塩基対配列の解読により,分布が拡大した高緯度地域では遺伝的多様度(塩基多様度,ハプロタイプ多様度)がやや減少していること,ハプロタイプにはふたつの系統があることがわかった.ふたつの系統のうち片方は古くから分布している琉球以南で割合が高く,もう片方の系統は分布北上後の本州での割合が高かった.2018年度には採集試料の塩基配列の決定を済ませ,遺伝的多様度などの解析をおこなった. 本申請では,過去100年の気候温暖化により分布を北上させ,近年に定着したとおもわれるダンダラテントウの遺伝的集団構造を,ミトコンドリアCOI領域の一部の情報ではあるが,検証した.これらの成果は,今後の気候温暖化にともないあらたに侵入してくる可能性を持つ南方系昆虫の,侵入後の集団動態を予測するためのデータとして重要であると考えられる.
|