研究課題
動物の複雑な交尾器形態の機能的意味を理解し、その進化史に迫った研究は充分に行われていない。本研究はこれまでほとんど注目されてこなかったカメムシ目昆虫の交尾器形態を機能的側面から検証し、強固な系統仮説に基づいて交尾器の進化史を探ろうとするものである。初年度は、野外調査と観察技術の確立に重点を置いた。野外調査では、国内各地および台湾にて交尾実験ならびに分子解析のためのサンプルを収集した。本下目を構成する3科のうち、情報の少ないムクゲカメムシ科の種を主な収集対象とした。国内既知種はカワラムクゲカメムシの1種のみであったが、未記載種を含む少なくとも4種を確認した。とくに個体数の多かった1種(未記載種)を研究室に持ち帰り、雌雄ペアあるいは雌雄複数個体を1つのシャーレに入れて観察した。雌雄の判別には体サイズと腹部の形状を確認した。野外調査中に雄が雌に交尾を企てようとする行動(雄が雌に飛びつき、雌の右側方から腹部を挿入しようとする)を確認したが(その後交尾には至らず)、実験下では一例も交尾を確認することができなかった。最終的に30個体以上の実験を試みたが失敗に終わった。台湾では蔡經甫博士(国立自然科学博物館)の協力のもと、南部を中心に調査を行った。これまで本下目に4種しか知られていなかったが、未記載種7種以上を含む約20種を確認した。特筆すべきは、野外にてノミカメムシ科オオメノミカメムシ属の交尾行動を初めて観察したことである。雌の右側方から雄の腹部が挿入されて接合する雄上位の姿勢で、カメムシ類ではよく見られるスタイルである。5例の交尾行動を観察し、うち1ペアを確保した。行動は写真と動画で記録した。本年度は室内での交尾実験は失敗に終わったが、個体数を十分に確保できる種をいくつか確認でき実験系の確立に十分な目処がたったため、次年度に行う計画である。
3: やや遅れている
形態および分子解析に必要なサンプルの収集については、おおむね計画通り進めることができた。また、野外における交尾行動の観察という想定外の成果はあった。しかし、本年度に計画していた交尾実験を確立することができなかった。実験対象種の個体数は十分に確保できることがわかり、実験系の確立には目処がたったため、研究協力者とも協議をしつつ進めていきたい。
野外調査ならびに交尾実験は、引き続き計画通り進める。交尾状態の観察については、SEMやマイクロX線CTスキャン等を用いるため、交尾状態ペアが多数必要であり、実験系の確立は必須である。飼育に係わる基本的な条件(温湿度、個体数、餌など)を検討し、精度の向上に努める。分子解析については、研究協力者と協議しながら収集したサンプルのDNA抽出および塩基配列の決定を進めていく。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件)
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