研究課題/領域番号 |
16K07505
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畑瀬 英男 東京大学, 大気海洋研究所, 技術補佐員 (10512303)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ウミガメ / 生活史 / 多型 / トレードオフ / 成体雌 / 餌場 / 子供 / 安定同位体分析 |
研究実績の概要 |
同じ砂浜で産卵するアカウミガメでも、小型個体ほど外洋で浮遊生物を、大型ほど浅海で底生動物を摂餌する傾向がある。浅海摂餌者は外洋摂餌者よりも2.4倍多く幼体を産出することと、摂餌者間で中立マーカーにおいて遺伝的構造がみられないことから、多型は条件戦略で維持されていると考えられている。しかし外洋摂餌者由来の子供の、地上に出現してから最初の繁殖に至るまでの期間の生残率が2.4倍高ければ、適応度が釣り合うため、維持機構の再考を要する。本研究では、母親の餌場が違えば、子供の上記期間の生残率に関わってくる、初期体サイズ、活動性、成長速度、及び死亡率に差異を生じるのかを、同一環境で孵化飼育することで検証した。 2016年7月上旬に、屋久島永田浜において、本種の産卵個体調査を実施した。小型と大型が産んだ卵塊を、一晩に1~3対、浜上部の孵化場へ移植した。小型と大型各10巣ずつを移植した。移植前に一腹卵数を調べ、5卵の重さを量った。そのうち1卵を採取し、安定同位体分析に供した。8月下旬に脱出幼体を捕らえた。幼体の甲長・甲幅・体重を測定した。また幼体をひっくり返して元に戻るまでの時間と傾向を測定するとともに、1巣につき1頭の幼体を水族館へ輸送し、同一環境で飼育した。 卵黄の炭素・窒素安定同位体比に基づくと、外洋摂餌者が10個体、浅海摂餌者が10個体いた。外洋摂餌者由来の幼体の方が、甲長・甲幅・体重が有意に小さく、巣からの脱出成功率が有意に高かった。これらは、外洋摂餌者由来の卵重が小さく、一腹卵数が少なかったことに起因していると思われた。幼体の自己修復傾向及び時間、また成長速度と死亡率に、摂餌者間で有意差はなかった。これらの結果は、摂餌者間で適応度が釣り合わないことを示唆し、回遊多型の後天性を強く支持した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査、室内化学分析、データ解析、学会発表、論文執筆、単著書籍の出版、本の出版記念トークショーを通じたアウトリーチなどを滞りなく実施できた。 今年度の研究から、アカウミガメ成体雌の餌場は、子供の活動性や成長速度などの質に影響を及ぼさないことが明らかとなった。これは子供の量と質にトレードオフがないことを意味し、回遊多型の後天性を支持する結果である。ウミガメ類における代替生活史の維持機構の全容解明に一歩近づいた。 また過去のデータとの比較から、アカウミガメが孵化温度が高くなる産卵期後半ほど大きな卵を産んでいることが示唆された。この現象は、高温により孵化幼体の体サイズが縮小することに対する適応反応であると考えられた。このような現象は、今のところウミガメ類において報告されていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究から、アカウミガメ成体雌の餌場は、子供の活動性や成長速度などの質に影響を及ぼさないことが示唆された。今後は、母親の餌場が、幼体の、巣から出てきて海へ向かう際の移動能力や、海に入ってからの遊泳能力に影響を及ぼさないのかなども詳細に調べる必要がある。また幼体の質には孵化環境が大きく影響を及ぼすので、餌場の違う親ガメが、微少規模で産卵場所を選択しているのかどうかを詳しく検証する必要がある。得られた結果を総合して、ウミガメ類の代替生活史が条件戦略で維持されているのか、代替戦略で維持されているのか、結論づける。 また本当にアカウミガメは産卵期後半ほど大きな卵を産むのかを、同一産卵期内に卵重を量って比較することで検証する必要がある。
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備考 |
2016年9月27日に、ジュンク堂書店池袋本店にて、著書「竜宮城は二つあった」の出版記念トークショーを行った。
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