研究課題/領域番号 |
16K07507
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
須之部 友基 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (00250142)
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研究分担者 |
国吉 久人 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (60335643)
坂井 陽一 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70309946)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 配偶システム / 神経葉ホルモン |
研究実績の概要 |
本研究は単系統群を形成するハゼ科ベニハゼ属・イレズミハゼ属を対象に配偶システム(一夫多妻,または一夫一妻)を決定する遺伝的基盤とその系統進化を示すことを目的とする.申請者らはベニハゼ属・イレズミハゼ属で,まだ配偶システムが未知の種を野外調査し,さらに配偶システムを制御すると考えられる脳内神経葉ホルモンであるバソトシン(VT)/イソトシン(IT)に注目し,特に遺伝子の発現様式の変異,つまり転写調節領域の変異を解析し,配偶システムの異なる種間で比較する. 28年度は奄美大島においてニンギョウベニハゼが一夫多妻であることが採集した性比より予測できた.またベニハゼ,チゴベニハゼ,アオベニハゼが飼育下で一夫多妻であることが明らかとなった.これらの種は雄を取り除くと最大の雌が雄に性転換し,雄を戻すと小型の雄は雌に性転換した. 転写調節領域の遺伝子配列が決定した種は以下のとおりである:エリホシベニハゼ,イチモンジハゼ,チゴベニハゼ,オニベニハゼ,ベンケイハゼ.配列には大きな変異は見られず,これまでの結果と併せると,配偶システムとの相関は見られなかった.遺伝子自体よりも例えば脳内神経の分布の違いが行動を制御している可能性がある. そこで系統的に非常に近縁で一夫一妻の配偶システムを持つカスリモヨウベニハゼ,一夫多妻のアオギハゼを用いて配偶システムの差異を導く雌の社会行動を観察した.さらにホルモン投与あるいは阻害剤を用いて,その機能を検討したところVTが行動に大きく関与していることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように当初計画したバソトシン(VT)/イソトシン(IT)に関与する遺伝子,特に転写調節領域と配偶システムとの関係について,これまで明らかになった成果を検討したところ明瞭な対応関係は見られなかった.つまり一夫多妻あるいは一夫一妻でも変異はなく,遺伝子自体よりも脳内神経の分布の違いや,受容体の違いなどが配偶システムに影響していることが明瞭に示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べたようにベニハゼ属やイレズミハゼ属を網羅的に調査するのではなく,特定の種に絞って研究を進めることが望ましいことが明らかとなった.今後は系統的に近縁で一夫一妻の配偶システムを持つカスリモヨウベニハゼ,一夫多妻のアオギハゼに注目し,VT/ITが脳のどの部分でどのように機能しているかさらに追及する方がより大きな成果が上がると考えた.今年度は特に一夫一妻種において、雌が雌間競争・継続的ペア形成を行っている際の脳内VT/IT産生神経細胞の形態、および各受容体の局在・存在量を免疫組織化学的手法により明らかにする。その後、同じ状況に置いた一夫多妻種雌、および平静時の一夫一妻種雌について同様の調査を行い、結果を比較することで雌の社会行動の表現に寄与するVT/ITの機能を明らかにする.
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