研究課題/領域番号 |
16K07510
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
中橋 渉 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員 (60553021)
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研究分担者 |
井原 泰雄 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (90376533)
堀内 史朗 阪南大学, 国際観光学部, 准教授 (90469312)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生活史 / 出産間隔 / 人類進化 / 数理モデル / 子育て |
研究実績の概要 |
まず霊長類や狩猟採集民の生活史データと古人類化石の推定年齢データを用いて古人類の出産間隔を推定し、それが非常に短かったことを示した。また、古人類の生活史の推定において重要な、彼らの社会形成を考えるために、以下のような様々な研究も行った。まず古人類社会でどのような配偶者選択が行われていたかを考えるため、性淘汰モデルを構築して解析した。その結果、配偶相手を選択する際に成功者を模倣する場合と同調的に模倣する場合で進化動態が異なることなどを示した。さらに、古人類はある程度の大きさの群れを作っていたと考えられるが、そのような群れを作るメリットを考えるため、群れサイズが集団行動に与える影響を数理モデルで調べた。その結果、群れが大きくなるほど周囲への警戒を弱めることができるようになることなどを示した。次に現生人類で見られるような個体間の協調が、古人類においてどのようにして出現したのかを明らかにすることを目指し、進化ゲーム理論を用いた研究を行った。特に、個体間に社会的順位の違いがある場合には、協調の結果として獲得された資源が優位個体に独占される可能性があり、協調は劣位個体にとって必ずしも適応的ではないと考えられるが、そこで協調が進化する条件を明らかにした。更に、条件不利地域においてどのように人が定住し子育てなどが可能になるか、実証的な研究を行った。山形では小規模事業者たちが独自のネットワークを構築することで、自分たちの企業活動を安定化していること(それが出産や子育てにも影響する)を示した。また現代日本人の移動頻度が出生率などの値にどのように影響するか、大阪の人口移動頻度と出生率の関連についても調査を開始した。以上の研究について、様々な学会や研究会で発表した。また、いくつかの研究は論文にまとめて査読付き国際誌に投稿し、受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、昨年度までに、様々な類人猿や狩猟採集民の生活史データから、これらの集団がどのような共通の生活史パターンを持っているかを様々な生存曲線モデルを用いて調べ、人類~類人猿に広くあてはまると考えられるモデルを見出した。そして、古人類化石の推定年齢データにそのモデルを当てはめ、彼らの生活史パラメータを推定し、古人類は現生人類や類人猿に比べ、成熟個体の期待余命が短く、成体まで生存する割合も低かったことを示した。一方で、古人類はこの高い死亡率にも関わらず絶滅せず生存していたことから、出産間隔が非常に短かったことが示された。他に、生活史の進化と関係する配偶者選択の数理モデル研究、古人類の群れ形成と集団行動の関係性を調べる数理モデル研究、異なる場所に拠点を置く行動が全体社会の統合に及ぼす影響についての研究、古人類における個体間の協調の起源に関する研究、なども行った。以上の研究の一部は論文としてまとめられ、査読付き国際誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究によって、古人類が現生人類や類人猿に比べてどれだけ出産間隔が短かったかが示された。次に問題となるのが、その短い出産間隔がどのようにして達成されたのかである。これを明らかにするために、霊長類や現生人類において、どのような場合に出産間隔が短くなるのかを文献調査などによって研究したところ、オス(父親)の子育てへの寄与がきわめて重要なファクターであることが示唆された。そこで、オスによる子育てが進化する要因について、数理モデルを用いて研究を行う。また、共同子育てのために重要な、個体間の協調の起源について理解を深めるため、協調を実現するツールとしてのコミュニケーション能力の進化について、考古データや数理モデルを用いた分析を行う。そして、現代日本人の出生行動について明らかにするため、大阪市24区の企業活動と、その地域における出生率の変化について調査を行う。研究結果は随時、論文にまとめ発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 計算機やソフトウエアを購入してデータ解析や数理モデル解析に用いる計画であったが、一部の機器に関しては、既に所有している機器を活用することで現状対処できたため、購入を先延ばしにした。また、海外出張を計画していたが、都合が合わなかったため次年度に先延ばしにした。 (使用計画) 今後より複雑な解析を行う上で必要となる機器を購入する。また、今年度は海外出張予定である。
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