防衛のための高度に特殊化した兵隊の存在は,社会性昆虫のシロアリが持つ大きな特徴である。兵隊の分化経路に明瞭な性差が見られる種では,性情報と幼若ホルモン(JH)シグナルに密接な関係性があるとの仮説をたて,複数種を材料に検証した。まず,昨年度に複数種のシロアリで見出された,性決定にかかわる候補遺伝子について,サブクローニングによるcDNA配列の取得と発現解析を行ったところ,各カーストの性間での発現パターンに関して重要な特徴が見られた。また,予備的な機能解析の結果,JHシグナルとの関係も考察された。現在,結果をまとめた投稿論文を準備している。更に,祖先的なグループであるネバダオオシロアリにおいて,基礎生物学研究所の次世代シーケンサーを用いて,兵隊分化時に特異的に発現する遺伝子を網羅的に解析し,得られた遺伝子の機能解析を行った。その結果,兵隊分化を規定する重要な因子をいくつか特定した。特に,輸送体タンパク質であるリポカリン遺伝子は,シロアリへの進化の過程で配列が特徴的に変化しており,女王からの栄養物質の受け渡し行動を介して兵隊分化を生じさせることが明らかになった。これらの結果は原著論文で発表すると共に,富山大学および基礎生物学研究所から同時にプレスリリースを行った。関連する結果の一部は,ブラジルで行われた第18回国際社会性昆虫学会,および複数の国内学会(第78回日本昆虫学会,第89回日本動物学会(開催中止,発表認定),平成30年度日本動物学会中部支部大会,第63回日本応用動物昆虫学会)にて発表した。
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