研究課題
優占種や林業的有用種を多く含むフタバガキ科の果実形態は実に様々である。萼片が発達した翼の有無にくわえ、翼や果実のサイズもまちまちのため、種子散布パターンは種によって異なることが予想される。しかし、自然状態での種子散布パターンについてはこれまで報告がほとんどない。他方で、種子散布の適応的意義にもつながると考えられる実生初期段階の定着制限要因としては、光・土壌などの非生物的要因に加えて、同種や近縁種の密度、食害といった生物的要因、および自殖や近交弱勢といった遺伝的要因が考えられる。そこで、樹種による定着制限要因の差異と種子散布パターンの関係性を検証するため、本年度はフタバガキ科2種(Shorea beccariana:大きな翼が3枚、 Dipterocarpus globosus:大きな翼が2枚)の種子散布パターンをまずは解明することを目指した。定着直後の当年生実生の葉(一部は子葉)と親候補木の内樹皮(取り直しの一部と新規個体)を採集し、DNAを抽出して遺伝子型を決定した。両親解析の結果、Dipterocarpus globosusの種子散布距離は10.6~739.1 mで、平均種子散布距離は203.8 ± 152.1 m(平均値 ± SD)であった。散布距離と頻度の関係は距離に依存した単調減少ではなく、100~150 mの距離が最も多い一山形で、種子散布全体の66.5 %が200 m以内であったが、200~450 m の範囲でも5 %程度の頻度を保っていた。Shorea beccarianaの種子散布距離は12.9~938.9 mで、平均種子散布距離は152.2 ± 103.8 m(平均値 ± SD)、全体の96.7 %が300 m以内の散布であった。以上から、フタバガキ科の種子散布範囲は限定的であると言われてきたが、中長距離種子散布が一定頻度で起きている可能性が示唆された。
3: やや遅れている
種子散布距離をより正確に推定するためには、果皮や果実の翼など母親由来の組織を用いて母性解析をする必要がある。今回は果実の翼からのDNA抽出を試みたが、うまくいかなかったため、両親解析によって推定された両親のうち当年生実生に近い方の個体を母親と仮定した。また、大きな翼がない種からのDNA抽出にも失敗したりと、遺伝実験に予想以上に時間がかかった。
予備実験より、果実の翼ではなく果皮からはDNAを抽出できる可能性が高いことが分かった。今後、フタバガキ科の開花・結実が起これば、複数の樹種を対象に散布直後の種子・実生を対象に再度サンプリングし、より精度の高い種子散布パターンの解明に努める。また、大きな翼が5枚ついた種(Dryobalanops aromatica)の当年生実生と親候補木のサンプリングとマッピングは完了しているため、その遺伝実験と解析を進める。さらに、個体識別した当年生実生の動態を継続調査することで実生定着制限要因を特定し、フタバガキ科における種子散布パターンと実生定着制限要因との関連性を検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Proceedings of the symposium "Frontier in Tropical Forest Research: Progress in Joint Projects between the Forest Department Sarawak and the Japan Research Consortium for Tropical Forests in Sarawak"
巻: なし ページ: 114-123
Agricultural and Forest Meteorology
巻: 220 ページ: 190-199
10.1016/j.agrformet.2016.01.140
巻: なし ページ: 179-186
巻: なし ページ: 124-131